東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 9月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

<税を追う 製薬マネーの行方>(7) 超高額薬 費用対効果は

写真

 今年五月、スイス・ジュネーブで開かれた世界保健機関(WHO)の年次総会。イタリアが提案した医薬品価格の透明性改善を目指す決議案が採択された。

 遺伝子治療薬を中心とした薬価の高騰は今や世界共通の課題だ。イタリアは研究開発費や薬の製品原価などの透明化も提案したが、スイス、ドイツ、英国、米国、日本の反対で決議案から削除された。反対した国はいずれも国内に世界的な製薬会社を抱える。

 「日本政府の立場として製薬企業の情報非公開を容認していることになる」。超高額薬価の問題解決に取り組む小島勢二・名古屋大名誉教授は政府の対応に不満を抱く。

 超高額医薬品をめぐる議論は、日本でも小野薬品工業が二〇一四年に発売したがん治療薬「オプジーボ」をきっかけに本格化した。患者が少ない皮膚がんの一種メラノーマ(悪性黒色腫)の治療薬として高額な薬価が付いたが、肺がんなどにも適用が拡大し、「医療保険財政を圧迫する」との懸念が広がったからだ。

 一六年末、日本肺癌(がん)学会が主催して福岡市で開いたシンポジウム。専門の医師らが執筆・監修する肺癌診療ガイドラインに、「薬の費用対効果を盛り込むべきでは」との意見が出た。だが、議論の着地点は見いだせなかった。

 ガイドライン策定に携わったことがある男性医師は「患者の寿命を延ばせる可能性があるのに、医師が『費用対効果が低いのでやりません』と言えるのか」と悩む。日本肺癌学会は「新しい薬剤が次々に開発され、費用対効果の評価はめまぐるしく変わる。診療ガイドラインに盛り込むのは難しい」と説明した。

 オプジーボ以降も高額な新薬は次々と登場している。米国で二億円を超す価格が付いた脊髄性筋萎縮症治療薬「ゾルゲンスマ」も年内に国内で承認される可能性が高い。

 政府は今年四月から、既存薬と比較して新薬の効果を分析し、効果に比べて薬価が高い場合は値下げする「費用対効果評価」を本格導入した。

 今のところ費用対効果で薬の保険適用の可否までは判断しないが、財務省幹部は「費用対効果の悪い薬は保険適用から外すことを検討してもよい。世界では費用対効果を保険収載の可否に使っている国は数十カ国もあり、日本もやれないことはない」と話す。

 一方、日本製薬工業協会の中山譲治会長は「費用対効果という言葉は美しいが、実際の患者のデータはものすごく不安定な数字だ」と語り、制度の拡大に異議を唱えた。

 超高額薬価をめぐる問題に有効な処方箋はあるのか。

 冒頭の小島教授は「遺伝子治療薬のほとんどは(大学や研究機関など)アカデミアの研究者が開発したもので、大手製薬企業が自社開発したものはほとんど見当たらない。薬の製品原価の大部分はアカデミアに払うパテント料や設備投資が占めると考えられる」と指摘。その上で、次のように提案する。

 「遺伝子治療薬などの生物製剤はアカデミアでも製造できる。そうして開発した治療技術を直接、患者に施すようにすれば、ずっと安価に提供することができる」

    ◇

 シリーズ「税を追う」へのご意見、情報を募集します。ファクスは03(3595)6919。メールはshakai@tokyo-np.co.jp 郵便は〒100 8505(住所不要)東京新聞社会部「税を追う」取材班へ。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報