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【社会】

<税を追う 製薬マネーの行方>(8) 本音で語れる講演会を 医師有志「企業と一線画す」

「知の羅針盤」を始めた宮川政昭さん=横浜市保土ケ谷区で

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 「製薬企業による講演会とは一線を画した、医師が本音で語り合える学術講演会を目指します」。今年三月、横浜市中区のホール。集まった数十人の医師を前に、神奈川県医師会の宮川政昭副会長(65)が高らかに宣言した。

 「知の羅針盤」と名付けた勉強会は今年三月に始まり、肝疾患や呼吸器疾患、糖尿病などをテーマに講演や意見交換を行ってきた。県内科医学会の名誉会長も務める宮川さんは、製薬会社主催の講演会を「医師が言いたいことをきちんと言えず、正確なことが伝わりにくい」と感じてきた。

 製薬会社は全国で一年中、病気治療や新薬をテーマに講演会を開いている。医療団体や医学会と共催の形を取ることが多いが、会場費や懇親会費、参加者全員の交通・宿泊費まで一切を負担。事実上、新薬の販売促進が重要な目的となっている。その際、会社側は講師依頼した医師の講演内容や用意したスライドを事前にチェックする。

 「同じような作用の薬を複数の製薬会社が作っている場合、主催企業の薬しか話せない。他社製品の話は『誹謗(ひぼう)中傷に当たる恐れがある』と止められ、薬の比較に踏み込めない」と宮川さん。

 「製薬企業は講演会を医療の情報提供の場ではなく、自社製品のプロモーション(販売促進)の場としてきた。講演内容やスライドもプロモーション資材と考えて事前介入している」と批判する。

 宮川さんらの勉強会の参加費は一回千円。毎回五十〜百人ほどが集まり、議論は盛り上がるが、会場費の一部は学会の経費で賄う。一方、二〇一七年度に約七十の製薬会社が講演会や病院での説明会に使った費用は総額約千五百億円。もとはといえば、患者が薬局で支払った薬代と私たちが納めた医療保険料や税金が、医薬品の売り上げとして企業に還流したものだ。

 「そうした大金の一部で基金をつくり、純粋な講演会をできないか。製薬会社は社是で社会貢献をうたっている。一般市民のためと認識してほしい」と宮川さんは願う。

 製薬会社主催の講演会は医師の薬の処方に影響しないのか。京都市の精神科医の東(ひがし)徹さん(40)は「一社だけの講演会だからその製薬会社の影響を受けやすい」と考え、複数の会社が参加する「合同症例検討会」を一四年に始めた。

 病気の症例に対してデータを用いながら、どの薬が良いかを医師や四〜五社の製薬会社の担当者で話し合った。毎回二十〜三十人の医師が参加したが、翌年まで数回開いて終わりにした。

 まず各社の担当者は「他社製品を悪く言えない」と議論が盛り上がらなかった。そこで一社が検討会の主催者になり、各医師がそれぞれ違う薬を推奨して議論することも試みたが、終わってみると、製薬会社が連れてきた医師の意見に同調する意見が増えた。

 「製薬会社に影響されやすいと感じた。短い説明で考えが変わるようでは医学的な知見が脆弱(ぜいじゃく)すぎる。説明の大部分は論文で学べるのに医師は甘えている」と東さん。

 「問われているのは医師の能力だと思う」

 =おわり

 (鷲野史彦、井上靖史、藤川大樹が担当しました)

      ◇

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