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【社会】

川口の元中学生損賠訴訟 市側「いじめ防止法に欠陥」

 埼玉県川口市立中学校の元男子生徒(16)が、いじめで不登校となったのに学校や市教育委員会の対応が不適切だったとして市に損害賠償を求めた訴訟の第六回口頭弁論が十八日、さいたま地裁(岡部純子裁判長)であった。市側は、いじめ防止対策推進法について「欠陥がある」とし、市側に不法行為はないと主張した。法を執行する立場の自治体が法を否定する異例の主張で、識者からは「危険な発想だ」と批判が出ている。 (近藤統義)

 大津市のいじめ自殺事件の反省から二〇一三年に施行された同法は、いじめを「行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」などと定義。これに対し、川口市側は地裁に提出した準備書面で、定義が被害者の主観に基づき広くいじめを認めているため「苦痛を受けたと声高に非難する者が被害者になり、精神力や社会適応能力の高さなどから相手を非難しない者が加害者にされる」と疑問を呈した。

 その上で「法律として整合性を欠き、教育現場に与える弊害を看過しがたい欠陥がある」とも主張。市教委が設置した同法に基づく第三者委員会は一八年三月、元生徒へのいじめを認定したが、「第三者委は定義に該当するか認定したもので、違法な加害行為を認定したものではない」とし、市側に不法行為はないと訴えた。

 閉廷後に会見した原告側代理人の石川賢治弁護士は「地方公共団体が、法律に欠陥があると訴訟で明言するのは聞いたことがない」と批判。元生徒の母親も「この考え方では子どもたちは守られない」と憤った。

 このいじめの件では、文部科学省や県教委が市教委に、法律に従って対応するよう再三指導してきた。また、市内では今月、いじめを訴えていた別の同市立中学校元生徒(15)が教委を非難する記述をのこし、自殺している。

◆定義変遷 法の趣旨理解せず

 何をいじめと判断するか。かつてはいじめる側の立場の強さや攻撃の継続性、被害者の苦痛の深刻度などを厳格に定義したが、その結果、いじめととらえてもらえず命を絶つ子どもが相次いだ。その反省から、いじめ防止対策推進法では、被害者の認識に寄り添う立場を取った。しかし、教育現場への浸透は不十分で、対応に差が出ている。

 文部科学省の松木秀彰・生徒指導室長は「残念ながら理解していない自治体もある」と話す。各都道府県教委などへ赴き、同法の趣旨を説明するが「いじめの定義が広すぎるという声は今も出てくる」という。

 「同じ言葉でも傷つく子どもと傷つかない子どもがいるから、『普通なら大丈夫だ』と考えて放置し、いじめとして扱わないことがあるようだ。しかし、本人が苦痛と感じる以上、放置できない。初期段階からきちんと対応してもらうための定義」と説明する。

 教育評論家の尾木直樹さんは「いじめの防止を目指すのだから、定義が広いのは当たり前。川口市の主張は教育の発想ではない。もしこの主張が裁判で通るようなら社会の秩序が崩壊する」と指摘した。 (柏崎智子)

◆不作為肯定する発想

<評論家でNPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表の荻上チキさんの話> 行政側が、法が欠陥だという趣旨で立論するのは、自身の怠慢を許し、さまざまな不作為を肯定する発想で危険だ。法の解釈に誤りや曲解も見られる。このような考えが法廷で披露され、教育現場にも波及するようなことがあれば、さらに問題だ。

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