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【社会】

<原発事故「無罪」>(上)判決に表情変えず 遺族ら「うそー」悲鳴

 未曽有の被害をもたらした原発事故の刑事責任について、司法は「無罪」と判断した。東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元会長(79)ら東電の旧経営陣三人に対する刑事裁判。本当に事故は防げなかったのか。刑事裁判が開かれた意義を考える。 

 「被告人三人は、いずれも無罪」

 十九日午後一時十五分、永渕健一裁判長が読み上げる判決主文が、東京地裁の法廷内に響いた。証言台の前に並んだ勝俣元会長、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)の三人は判決が言い渡されると、そろって裁判長に向かって一礼。被告人席に戻った武藤元副社長は、着席と同時に軽く二度うなずき、二人は硬い表情を崩さなかった。

 無罪判決の一報を伝えようと、記者たちが一斉に席を立ち上がり慌ただしく出て行く。傍聴席からは「うそー」という叫び声が上がり、あちこちからため息が漏れた。

 「(旧経営陣に津波対策の方針が了承された、とする元社員の供述調書は)推測で述べている可能性があり、疑義がある」「(対策を指示しなかった)三人の対応は特異なものとは言えない」

 永渕裁判長が、検察官役の指定弁護士側の主張を次々と否定していく。争点となっていた「最大一五・七メートルの津波が原発を襲う可能性」を示す試算結果についても、その根拠となった国の地震予測「長期評価」について「事故前の時点では、十分な根拠を示していたとは言い難い」と信頼性に疑問を投げかけた。

 これまでの公判で、部下から試算の報告を受けながら対策工事などを指示しなかった武藤元副社長は、検察官役の指定弁護士から「対策の先送りだ」と批判されると「心外だ」と色をなして反論。武黒元副社長も試算通りの津波を想定しなかったのかと問われ「仮定の話に意味はない」と不快感を示し、勝俣元会長も「技術的なことは分からない」といら立ちをあらわにする場面があった。

 この日、裁判長が「長期評価の信頼性には限界があった」と読み上げると、それまで眼鏡を外してメモを取っていた武藤元副社長は軽くうなずき、顔を上げて勝俣元会長、武黒元副社長の様子を確認。再び眼鏡をかけ、深々といすの背にもたれ掛かった。勝俣元会長は、判決を読み上げる裁判長の姿を見つめ、武黒元副社長はうつむいたままだった。

 約二時間四十分間続いた判決の読み上げの終盤、永渕裁判長は「事故前は、絶対的な安全確保は求められていなかった」とした上で、「三人の罪は認定できない」と締めくくった。

 裁判長が閉廷を宣告すると、三人は遺族もいる傍聴席には目を向けず、立ち止まることもなく、無表情のまま法廷を後にした。「こんなの間違っている」。傍聴人の悲鳴が、法廷にこだました。 (この連載は、小野沢健太が担当します)

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