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【社会】

イラクの子、安らぐ日まで 心のケア支援継続ピンチ 都内のNPO資金募る

アートなどを通して子どもたちの心のケアをする「平和のひろば」=イラク北部キルクークで(日本国際ボランティアセンター提供)

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 過激派組織「イスラム国」(IS)などに家族を殺害されトラウマ(心的外傷)を抱えるイラクの子どもを支援するための活動資金を、認定NPO法人「日本国際ボランティアセンター(JVC)」(東京都台東区)が、インターネットのクラウドファンディングで募っている。十年続ける事業自体を続けられなくなる可能性もあり、JVCは協力を呼びかけている。 (蜘手美鶴)

 JVCがイラクで支援を始めたのは二〇〇九年から。現地非政府組織(NGO)と協力し、〇三年のイラク戦争やその後の混乱でイラク北部のキルクークに逃げてきた子どもに、民族の多様性や共生を学んでもらう事業を続けている。

 一五年からは、ISの戦闘で深刻なトラウマを抱えた子どもが目立つようになり、心のケアに力を入れている。

 親が斬首されるのを見たり、自宅が破壊されたりした経験を持ち、大きな音を怖がり、家族とも話せないといった症状が、精神科医のカウンセリングなどで改善するという。

 心のケアの一環で子どもたちが描く絵は痛々しい。涙を流す人たちの頭上に爆撃する飛行機、授業をする女性教諭に向かって銃を撃つ覆面の男−。絵には「勉強を続けたい」「死ぬのが怖い」などと書き添えてあり、JVCの中野恵美さん(51)は「先生や学校が襲撃されている絵が多く、ISが実際に学校を襲っていたんだと思う」と話す。

 だが、イラク戦争への関心は年を追うごとに薄まり、事業費捻出も困難に。そのため、今回初めて本格的にクラウドファンディングで四百万円の活動資金を募っている。十月から始まる本年度の支援に充てる。具体的には、六〜十三歳の子ども約七十人を対象に、精神科医やソーシャルワーカーによる心のケア、アートや演劇を通しての平和教育などを実施する。十月三日までに目標額達成を目指すが、まだ半分にも満たない。達成できない場合は返金する仕組みで、事業の存続が危機に陥る。

 現地NGO「インサーン」のアリ・アル・ジャバリ代表(47)は「過酷な経験をした子どもにとって、専門家のケアを受けることはとても重要」と強調。中野さんも「暴力や憎しみは連鎖する。健やかな子どもの心を育むことが、平和な国をつくることにつながる」と話す。

 寄付は一口三千円から。金額に応じて、子どもたちからお礼の手紙などが届く。二十日正午現在、百八十万二千円が寄せられている。問い合わせは、JVC=電03(3834)2388=へ。

教諭を撃つIS兵士を描いた絵

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◆「惨状の責任、日本にも」

 二〇〇三年のイラク戦争以降、イラク国内では宗教対立による内戦やIS侵攻など、断続的に戦闘が続いている。現在も約六十万人が国内で避難生活を続けている。

 この混乱の発端となったイラク戦争について、日本は「大量破壊兵器がある」と戦争を主導した米国を全面的に支持。〇三年五月時点で、米国、英国に次ぐ一億四千百五十万ドル(約百七十億円)の資金提供を表明し、〇四〜〇六年には自衛隊員延べ約五千五百人をイラクに派遣した。「大量破壊兵器」は存在せず、英国は参戦プロセスを詳細に検証。だが、日本は四ページの概要版しか公表せず、開戦支持の根拠も示していない。

 日本在住のあるイラク人男性(36)は「開戦前の教育水準は高く、治安も良かった。復興にはまだ長い時間がかかる」と嘆く。JVCの仁茂田芳枝さん(35)は「イラクの子どもを『かわいそう』と思うなら、なぜこの状況が生まれたのかも考えてほしい。泥沼の現状を生んだ責任の一端は、日本にもある」と話す。

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