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【社会】

【動画あり】木村、46歳新王位 最年長 初タイトル あきらめない心 7度目で結実

第7局終局後、対戦の感想を話す木村一基王位=26日午後、東京都千代田区内の都市センターホテルで(坂本亜由理撮影)

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 将棋の豊島将之(とよしままさゆき)王位(29)=名人=に木村一基(かずき)九段(46)が挑戦していた第六十期王位戦七番勝負(東京新聞主催)の最終第七局は二十六日、東京都千代田区の都市センターホテルで指し継がれ、午後六時四十四分、後手番の木村が百十手で勝ち、対戦成績四勝三敗で初の王位を獲得した。 

 木村は四十六歳三カ月での初タイトル獲得となり、有吉道夫九段が持つ最年長記録(三十七歳六カ月)を大幅に更新した。持ち時間各八時間のうち、残りは木村二十四分、豊島一分。

 「七度目の正直」で、史上最年長での初タイトル獲得を決めた木村一基新王位。タイトルへの強い思いを維持し、遅咲きの花を開かせた。その原動力は「苦労が生んだ受け将棋」だった。

 「負けと知りつつ、目を覆うような手を指して頑張ることは結構辛(つら)く、抵抗がある。でも、その気持ちをなくしてしまったら、きっと坂道を転げ落ちるかのように、転落していくんだろう」。木村王位が雑誌「将棋世界二〇〇七年五月号」に寄せた文章は、自身の棋士人生を的確に表現した言葉だ。過去六度のタイトル挑戦に失敗。十年前の王位戦では、三連勝の後に四連敗を喫した。「最後のチャンスかも」と臨んだ三年前の王位戦はフルセットの激戦の末に敗退。終局直後、悲嘆の涙に暮れた。

 手痛い負けを、歯を食いしばって乗り越えてきた。二十年以上、研究パートナーを務める飯島栄治七段(40)は「将棋への向き合い方、弟子の指導、ファンサービス、全てがお手本。でも一番学んだのは、どんな場面でも『あきらめない心』だった」と語る。

 木村王位は修業時代も勝てば昇段の一番でなかなか勝ちきれなかった。プロ入りは二十三歳と、トップ棋士にしては遅い。その過程で編み出されたのが、苦しい局面を粘り強く耐えしのぐ「受け将棋」だ。「辛抱することを決していとわない。長年の苦労が木村将棋の土台にある」と、小学校時代から親交のある行方尚史(なめかたひさし)八段(45)は指摘する。

 将棋界ではこの数年、タイトル保持者を二十〜三十代の棋士が占め世代交代が進んでいた。その流れにあらがい、加齢とともに棋力は低下するという将棋界の常識も覆した。行方八段は「心が折れてもおかしくないのに、不屈の精神を持ち続けた。まさに『中年の星』の活躍」とたたえる。

 木村王位が色紙や扇子によく揮毫(きごう)する言葉が二つある。「晩成」「百折不撓(ひゃくせつふとう)(何度折れてもくじけないこと)」。まさにその言葉の通りに、長年の夢をかなえてみせた。 (樋口薫)

<きむら・かずき> 1973年、千葉県四街道市出身。故佐瀬勇次名誉九段門下。97年プロ入り(四段)。2005年、竜王戦でタイトル初挑戦。11年、朝日杯将棋オープン戦優勝。17年、九段昇段。

 

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