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【社会】

香港の「覆面禁止法」は対岸の火事じゃない

 香港政府が四日に制定した、デモ参加者がマスクなどで顔を覆うことを禁じる「覆面禁止法」。議会での審議を経ずに設けられる「緊急状況規則条例」が発動され、五日から発効した。日本でも批判が高まっているが、実は「対岸の火事」ではないと指摘する専門家もいる。(稲垣太郎)

「覆面禁止法」の施行などに抗議し、マスク姿でデモ行進する市民ら=5日、香港で(共同)

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◆英植民地時代の緊急条例を適用

 覆面禁止法の狙いはデモ参加者の顔をさらさせること。顔の見えない状態が過激なデモを助長しているとして、親中派の立法会(議会)議員らが早期成立を訴えてきた。

 使われたのが、英国の植民地時代の一九二二年に制定された緊急条例。九七年の香港返還後で初めての適用となった。なぜ、このタイミングなのか。

香港・モンコックの警察署周辺で若者を拘束する警察官=7日(共同)

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◆顔を出させてデモ過激化の抑制を狙う

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「中国政府は十月一日の建国七十周年記念式典を無事に終わらせたところ。香港でのデモの事態収拾を香港政府に指示し、圧力もかけた結果だと思う」と話す。

 「デモの中の過激な人たちはマスクなどで顔を覆っているが、顔を出させることでデモの過激化を抑圧する。顔を全ては隠していない一般の若者に対しても、顔がばれてしまうと、自分の将来に不利になるという無言の圧力になる。香港政府があの手この手を使って事態の収拾を図ろうとしている表れだ」

マスクで顔を隠してデモ行進する参加者たち=6日、香港島で、浅井正智撮影

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◆監視社会は最近の日本にも通じる

 関西学院大の阿部潔教授(メディアコミュニケーション論)も、市民の顔をさらさせることを問題視する。「顔を覆うことを禁じられ、カメラで顔の写真や映像を記録されると、デモをしているその瞬間だけでなく、その人の将来にわたって照合され、表現の自由や集会の自由などが制限される。市民的な自由がこの法律によって抑圧されることになる」

 こうした規制は、あくまで中国政府を背景とする香港政府による動きだが、最近の日本にも通じるものがあると指摘する。

 「いたるところに監視カメラがあり、顔認証システムの普及もあり、人々の情報が勝手に蓄積されている。警察の捜査に協力してほしいと言われれば、それらの情報は提供されてしまう」

 中国では政府と大手IT企業が連携して市民の個人情報を集めているが、日本でも、国が導入したマイナンバーの普及に躍起だ。阿部氏は「私たちはインターネットで便利に買い物をするのに個人情報を差し出し、その情報が蓄積されていく。民間企業が集めた個人情報がマイナンバーの情報と結び付けられる監視社会になる危険性がある」と話す。

記者会見する香港政府トップの林鄭月娥行政長官=4日、香港(共同)

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◆ 治安維持名目で市民弾圧

 名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)は、民主的な手続きを省略する緊急条例が適用された事実に注目する。「国家緊急権がある国では、国内の治安を守るためという名目の下、政府の動きに反対する市民を弾圧するための手段として使われることが多い。香港でも同じように使われ、人権という観点からすれば非常に危険だということを事実で再び証明した」

 飯島氏によれば、日本でこの国家緊急権に該当するのが、自民党が二〇一八年にまとめた改憲四項目に盛り込んだ緊急事態条項だ。「自然災害に対応するために緊急事態条項が必要だとしているが、現行の災害対策基本法で対応できる。自然災害対応を口実に、反政府的な言動をする市民を弾圧する手段になり得る危険性を認識する必要がある」と話す。

(2019年10月5日東京新聞朝刊「特報面」に掲載)

 

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