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【社会】

がん起こす遺伝子変異 日本人参加の国際研究チーム 未解析領域で発見

カナダのトロント小児病院の鈴木啓道博士研究員(左)とマイケル・テイラー教授=鈴木氏提供

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 白血病など三種類のがんの発生につながる新たな遺伝子変異を、カナダのトロント小児病院の鈴木啓道(ひろみち)博士研究員=静岡県袋井市出身=らの国際研究チームが突き止めた。この変異により異常なタンパク質が作られ、細胞ががん化するとみられ、新薬開発への応用が期待される。十日(日本時間)の英科学雑誌「ネイチャー」のオンライン版に、二本の関連論文が掲載された。 (藤川大樹、三輪喜人)

 この遺伝子変異は人間の細胞内にある遺伝情報のうち、解析が進んでいない「ノンコーディング領域」と呼ばれる部分で見つかった。

 研究チームのメンバーは他に同病院のマイケル・テイラー教授や、オンタリオがん研究所のリンカーン・ステイン教授ら。鈴木氏は論文の筆頭著者を務めた。

 チームは、子どもの脳にできるがん「髄芽腫(ずいがしゅ)」の三百四十一症例について、遺伝情報を解析。「U1 small nuclear RNA」と呼ばれるRNA(リボ核酸)の特定部分に、遺伝子変異が高い頻度で生じていることが分かった。

 解析の対象を髄芽腫を含めた三十七種のがん、計二千七百八十三症例に広げたところ、白血病の一種の「慢性リンパ性白血病」と、B型肝炎やC型肝炎などのウイルスが関与する「肝細胞がん」でも同様の変異が見つかった。

 この変異は、遺伝子が新たな異常機能を獲得する「機能獲得型」と呼ばれ、一般的に「機能喪失型」よりも治療法や新薬の開発がしやすいとされる。

 鈴木氏は「同様の変異は正常細胞では認められず、副作用の少ない治療開発につながる可能性がある。また、この変異が作る大量の異常タンパクを標的にして細胞を攻撃させる免疫療法も非常に有効だ」と話している。

<名古屋大医学部附属病院ゲノム医療センター病院講師・奥野友介氏の話> 解析が非常に困難なノンコーディング領域に新たな変異を発見し、その変異が多数の疾患にまたがっていることを見つけたのは画期的だ。今回見つかった新たな変異に対する治療薬の開発も期待される。

◆98%のがらくたから「宝」

 人間の遺伝情報(ゲノム)のうち、人体を構成するタンパク質になる情報を記録(コーディング)した領域は約2%しかない。残る約98%の「ノンコーディング領域」は役割が分からず、「ジャンク(がらくた)」と呼ばれてきた。鈴木氏らは最新の遺伝子解析技術で、がらくたの山から「宝物」を発見した。

 細胞内のRNAは、遺伝情報を伝えるDNA(デオキシリボ核酸)内のタンパク質の情報を写し取り、その生産に関わるとされるが、ノンコーディング領域のRNAはタンパク質を記録しない。体内のタンパク質の異常は病気にも直結するため、これまではコーディング領域が集中的に調べられてきた。

 ところが近年、遺伝子解析技術の向上を背景に、ノンコーディング領域にも重要な役割があることが明らかになってきた。

 人間のゲノムを解読する国際プロジェクト「ヒトゲノム計画」が完了した2003年当時は、1人分のゲノムを調べるのに13年、3000億円以上かかった。現在は解読に必要な期間はわずか1日、費用も10万円ほどで済む。低コストで簡単にゲノムを調べられるようになり、世界中の研究者がノンコーディング領域に目を向けている。

 同領域は複雑で解析が難しく、これまでがん治療に役立つ新規の変異はほとんど見つかっていないだけに、今回の発見はノンコーディング領域への注目を高めそうだ。鈴木氏は「この領域の解析が進めば、がんの病態をさらに解明できる可能性がある」と期待した。

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