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【社会】

東京五輪の札幌移転 危険はマラソンだけじゃない 商業主義の犠牲はいつも選手

トライアスロンの東京五輪予選で、ゴール後に倒れ込む女子選手たち=8月、東京・お台場海浜公園で

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 猛暑への懸念から国際オリンピック委員会(IOC)が打ち出した、2020年東京五輪マラソン・競歩の札幌開催案。土壇場の決定に衝撃が広がっているが、東京の暑さが健康に影響しそうな競技は、他にもいろいろ指摘されている。「アスリートファースト」は、どこへ行ったのか。 (安藤恭子)

 現行計画では、暑さ対策として、男女のマラソンは午前六時、男子50キロ競歩は五時半などとする繰り上げスタートが決まっている。

 ただ、五輪開催期間(七月二十四日〜八月九日)の今夏の都心の最高気温は、毎日三〇度以上を記録。湿度や日射を含め、熱中症の危険度を示す「暑さ指数」で「運動は原則中止」とされる「危険日」が、十七日間のうち十四日に上った。こうした状況を懸念し、組織委などは夏場に五輪テスト大会を開いた。

◆「馬も人も危ない暑さ」

 だが、七月に品川区で行われたビーチバレーのテスト大会では、溝江明香選手が「何も考えられなくなって、脚が動かなくなって、視界が狭まった」と熱中症のような症状に。八月に世田谷区などであった馬術でも、戸本一真選手が「馬も人も危ない暑さ」と訴えた。

酷暑の中で行われた馬術の東京五輪テスト大会=8月、東京都世田谷区で

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 同月に東京・お台場海浜公園で行われたトライアスロンでは、暑さ指数が高まる予測を受け、女性は最後のラン種目が10キロから5キロに短縮された。東京湾の水質も「臭い」と指摘され、基準を超える大腸菌の検出を理由に、パラトライアスロンのスイムが中止された。

 消耗の激しい屋外競技は他にも。ラグビー7人制が開始を午前九時に早めたほか、自転車マウンテンバイクは逆に開始を一時間遅らせて午後三時に。サッカーやオープンウオーターも開始時刻を変更している。

 組織委は「他の競技について、会場変更という話は把握していないが、各競技団体から暑さ対策に向けた要望は受けている。時間の前倒しを含めた新たな対策を十一月初めにも公表する」(広報)とする。

◆人工雪にアサガオ…小手先ばかり

 そんな中で浮上した札幌移転案。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は「ここまで問題を見て見ぬふりしてきたIOCは、あまりに無責任」と憤る。

 観客向けの対策として、組織委などは、マラソン、トライアスロン、ビーチバレー、ボート、ホッケーを暑さ対策の重点競技に指定し、ミストシャワーなどの実証実験を行った。都は先月発表した検証結果で、ビーチバレーのテスト大会で救護所を利用した観客四人が熱中症の疑いだったと説明。本番でも患者が複数発生する可能性があり、体調不良者を早期に発見できる体制が必要などとした。

暑さ対策として「かぶる傘」をPRする小池百合子都知事=5月、東京都庁で

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 沿道に日陰を作るテントや、体を冷やす保冷剤の配布などの暑さ対策も打ち出されているが、人工雪や「涼しい印象を与えるアサガオを並べる」といったものも。「いずれも小手先の対策。招致段階で放映権料を払う米放送局やIOCの意向を受け、日本側が八月開催を認めたことが根本にある。五輪商業主義の犠牲となるのはいつも選手だ」(谷口氏)

◆日本の「ウソ」が混乱招いた

 スポーツライターの小林信也氏は「札幌案を聞いて、ほっとした。夏のテスト大会やドーハ世界陸上の惨状を受け、IOCがぎりぎりのところでスポーツ人としての良識を通した。サッカーなど長時間屋外にいる競技も移転が望ましい」と話す。問題視するのは、招致の際の立候補ファイルに、日本側が「晴れる日が多く、かつ温暖で(略)理想的な気候」などと記していたことだ。

 「日本が世界にウソをつき続けた結果、今回の事態を招いた。暑さ我慢を競うのではなく、最大のパフォーマンスを発揮することがスポーツの本質。五輪で過酷な環境を強いられ、それが失われることは許されない」

(10月18日東京新聞朝刊特報面に掲載)

 

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