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【社会】

サヨナラ、神宮第二球場 狭さも古さも魅力 11月3日が最後の試合

多くの観客でにぎわう新宿区の神宮第二球場。野球の試合がない時は、ゴルフ練習場(右奥)に

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 神宮球場(新宿区)の隣にあり、主に高校野球で使われてきた神宮第二球場が再開発のため、役目を終えようとしている。手書きのスコアボードが残り、なぜかゴルフ練習場も併設されている都心の名物球場だった。最後の大会が行われており、熱戦を繰り広げてきた名将たちも別れを惜しんでいる。 (文・加藤健太 写真・中西祥子、安江実)

◆選手との距離が近く、本塁打もたくさん

 一塁側を見渡すと、あるはずの観客席がなく、ないはずのゴルフ練習場がそびえ立つ。試合がない時は一塁側から三塁側へ、ダイヤモンド上を無数のゴルフボールが飛び交う。

手前から新国立競技場、神宮第二球場、神宮球場、秩父宮ラグビー場=本社ヘリ「あさづる」から

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 右翼席では手書きのスコアボードが異彩を放つ。電光掲示板が主流の今、絶滅危惧種とも言える。裏側にいる係員が隙間から試合を見て、点数や選手名を慌ただしく入れ替えてきた。

 「狭っ!」。観客がこう驚くのを何度聞いただろう。両翼九十一メートル、センターまで百十六メートル。神宮球場よりも一回り小さい。ゴルフボールを受け止める高さ四十八メートルのネットがいっそう窮屈に感じさせる。

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 でも、この狭さが魅力。選手との距離が近く、ブラスバンドは迫力満点。十五年前から通っているという静岡県沼津市の会社員笹原行正さん(55)は「本塁打がたくさん出るから見ていて面白かった」と語る。

 早稲田実業で百十一本塁打を放った清宮幸太郎選手(日本ハム)の第1号もここだった。豪快な一発を見たさに、五千六百三十六席はいつも超満員だった。

◆相撲から野球、ゴルフ練習まで

神宮第二球場の場所は相撲場(中央の円形の建物)だった(1932年撮影、明治神宮外苑提供)

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 神宮第二の「前身」は、なんと相撲場。アマチュア野球の聖地だった神宮球場だけでは試合を消化しきれなくなり、一九六一年に開場。以来、高校野球の都大会や、東都大学二部リーグなどが行われてきた。

 七三年、ゴルフの大衆化を背景に練習場が開設された。施設を管理する明治神宮外苑の有隅明さんは「土地を有効に活用する都心ならではのアイデアだったのでしょう」と推し量る。

 都心で百五十ヤードが打てる練習場は他になく、年間三十万人が利用する。高校野球の秋季都大会があった十九日、試合が終わると同時にヤード表示や旗ざおが立てられ、三十分後にはゴルフの打球音が響いていた。

東京五輪後に解体が決まっている神宮第二球場

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 左翼席の背後に、新国立競技場が見える。神宮第二は一帯の再開発のため、東京五輪・パラリンピック後に取り壊され、跡地に秩父宮ラグビー場が移転する予定になっている。

 十一月三日午後零時半。この日二試合目となる高校野球秋季都大会の準々決勝で最後のプレーボールがかかる。顔を合わせるのは、どのチームか。トーナメント表を見ると、人気がある屈指の強豪校がこの山に偏っている。野球の神様が用意したシナリオだろうか。きっとフィナーレにふさわしい好カードになるはずだ。

選手と距離の近さが魅力

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◆スパイクが埋まるほど…名将も別れ惜しむ

 高校野球の名だたる指導者たちも神宮第二に惜別の念を抱く。

 3度の全国制覇を果たした帝京の前田三夫監督(70)は「この球場にはよく勝たせてもらった」と懐かしむ。「強打の帝京」にとって狭い神宮第二は相性が良く、打てる選手を一段とそろえて臨んだ。

 苦い思い出もある。監督になりたての1974年。打球を処理しようとした外野手が、ゴルフボールで荒れた芝生に足を取られ、転倒。単打が長打になり、勝てば甲子園出場が決まる一戦を落とした。「そりゃ寂しいよ。半世紀の付き合いだからね」。見慣れた景色を惜しむように携帯のカメラを向けた。

 今夏の甲子園でベスト8入りした関東一の米沢貴光監督(44)も、現役時代の記憶をいとおしそうに打ち明けた。「当時のグラウンドは土だったから試合が進むとスパイクが埋まるくらい荒れた。おかげでイレギュラーバウンドに苦労したが、それも味だった」。あの時に踏みしめた感触が今も足の裏に残っている。

◆トリビア

<プロ野球も開催> 完成した翌年の1962年にイースタン・リーグ公式戦「国鉄−大毎」、65年と70年にも東映や巨人戦の記録がある。

<強豪校の特権?> スコアボードは全て手書き。効率化のため「帝京」「日大三」などの常連校は学校名を消さずに保管している。

<人工芝はお下がり> 93年、土から人工芝に。現在は2008年まで神宮球場で使われていたものが転用されている。

(10月25日東京新聞朝刊「TOKYO発」に掲載)

 

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