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【社会】

千葉豪雨・市原 土砂崩れで妻死亡 夫、懸命の人工呼吸も…

吉野きよ子さんが崩れた土のうと自宅外壁の間に挟まれ亡くなった現場=27日、千葉県市原市で

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 重さ一トンを超える土のうが自宅の裏山からなだれ落ち、土砂とともに妻を襲った。豪雨で犠牲となった千葉県市原市の吉野きよ子さん(57)。「苦しい、苦しい」と助けを求める中、夫の寛さん(57)は懸命に人工呼吸を続け、救出時に唇はかすかに動いていた。通夜があった二十八日、共に過ごした二十九年を振り返り「今まで日常を支えてくれた。感謝しかない」と涙ながらに語った。 

 「ゴボッ、ゴボッ」。激しい雨が降り続いた二十五日、自宅近くの排水路は午前中から水があふれていた。大雨でこれまでに何度も土砂崩れが起きた裏山。寛さんは数年前から斜面に大きな土のうを並べて備えていた。

 午後四時ごろ、自宅敷地にたまった水を逃がすため、きよ子さんは裏山近くで、寛さんはそこから数メートル離れた場所で作業していた。「ミシ、ミシッ」と鈍い音が山から響く。「逃げて!」。きよ子さんが叫んだ直後、土砂と土のうが押し寄せ、自宅外壁との間に挟まれた。

 寛さんは土のうをどかそうとしたが、びくともしない。異変に気付いた近隣住民たちもスコップを手に土砂をかき分けた。「もうすぐだよ」。きよ子さんを励まし、頭を抱きかかえながら人工呼吸を続けた。

 駆け付けた消防隊員が一時間ほどで救出してくれた。かすかに動く唇。「ああ良かった…」。一緒に救急車に乗り込み、病院に向かった。

 だが容体は次第に悪化する。心臓は二度止まり、機械で強制的に体内の血を巡らせる治療もした。しかし、二十六日午前一時三十八分に亡くなった。

 二人は同じ建築関係の仕事をしていた縁で、一九九〇年に結婚した。その後、一級建築士の寛さんが立ち上げた会社を、きよ子さんが経理担当として支えた。自宅はきよ子さんの実家で、生まれてからずっと過ごした場所。遺体を連れ帰り、親族らと静かにしのんだ。

 九月の台風15号と十月の台風19号による住宅被害の無料相談に乗るなど復旧に力を尽くしてきた寛さん。そのさなかに妻を失った。土砂災害で命を落とす人は後を絶たない。自宅の裏山を見つめながらこう訴えた。「個人の対策には限界がある。国や自治体はもっと本気になって防災に取り組むべきだ」

 

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