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【社会】

<代替わり考 大嘗祭>(上) 密室で安寧と豊穣祈り

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 天皇陛下の即位に伴う最も重要な皇室祭祀(さいし)「大嘗祭(だいじょうさい)」の中心儀式「大嘗宮の儀」が、十四日夕から十五日未明にかけて行われる。神道色の強い儀式だが、政府は天皇の一世一代の儀式であって公的性格を持つとして多額の国費を支出する。憲法の政教分離原則の観点からも論議を呼ぶ大嘗祭とは、どのような儀式なのか。ベールの内側を探った。 (編集委員・吉原康和、阿部博行)

 大嘗宮の儀を五日後に控えた今月九日。皇居・東御苑に造営された大嘗宮で、宮内庁職員の総合リハーサルが行われた。だが、本番を含めて儀式の様子が一切公開されない場所がある。

 主祭場となる悠紀殿(ゆきでん)と主基殿(すきでん)だ。二つは同じ構造で、入り口側の「外陣」と奥の「内陣」に分かれる。内陣は天皇陛下が皇祖神とされる天照大神(あまてらすおおみかみ)と神々に神饌(しんせん)(神の食事)を供える部屋で、中央に畳表と坂枕、覆衾(おふすま)(絹の布)を重ねた「寝座(しんざ)」が設けられる。これは神が休む場所とされる。

 寝座の西側には陛下が座る畳の御座(ぎょざ)があり、そこから伊勢神宮のある南西の方角に向かって「神座」が設けられる。内陣に入るのは陛下と「采女(うねめ)」と呼ばれる手伝いの女性職員二人だけ。密室でどのような神事が行われるかは「秘事」とされている。

 九十一年前の昭和の大嘗祭の際、民俗学者の折口信夫は古事記などの神話から連想し、「新天皇が寝座で覆衾にくるまれることで『天皇霊』を身につける」とする「真床(まとこ)覆衾」論を唱えた。大嘗祭を秘儀とする「寝座秘儀説」の代表格で、戦時中の国定教科書には「天照大神と天皇が一体となる神事」として掲載された。

 戦後のオカルトブームもあって折口説は影響力を持ち続けたが、三十年前、国学院大学名誉教授の岡田荘司氏は、寝座について「天皇でさえ入ることはできない場所だ」と論じ、天皇が神格を得るとする秘儀説を否定した。

 宮内庁も前回の大嘗祭で折口説を否定した。内陣で行われるのは国の安寧と五穀豊穣(ほうじょう)を祈る儀式であると明言する一方、この儀式で天皇が具体的に何をしているのかは明らかにしない。

 岡田氏は、平安時代の貴族の日記など多くの文献を読み解くなどして、内陣で何が行われているかに迫った。それによると、(1)神饌を供える(2)拝礼してお告げ文を読む(3)神と共に食する直会(なおらい)−の三段階があり、内陣で過ごす約二時間半のうち、一時間二十分は(1)の神饌を神々に供える動作に充てられるという。

 神饌は、米、粟(あわ)、魚や果物、アワビの煮物、海藻、果物などが柏(かしわ)の葉で作った箱に盛られている。天皇は竹箸(ばし)を使って箱から三個ずつ柏の皿に移して神座の前に並べていく。箱から皿へ移す回数は五百回を超え、「作業は休む暇もなく、かなりの重労働だ」と岡田氏は話す。

 大嘗祭は依然として深いベールに包まれているが、岡田氏は現代的意義をこう強調する。「古代日本では大陸から多くの人々が渡来し、国土繁栄に寄与した。自然災害を鎮め、五穀豊穣を祈る大嘗祭の儀式には、天皇とともに、国内外の人々の願いが込められている」と語る。

神饌を運ぶ采女=1990年11月22日、皇居・東御苑で

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