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【社会】

衝撃から1年 戦略着々 ゴーン前会長、来春にも公判

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 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が東京地検特捜部に逮捕されてから、十九日で一年になる。世界中に衝撃を与えた「カリスマ経営者」の逮捕は、否認すれば身柄拘束が長引くとされる「人質司法」などの問題もあぶり出した。一貫して無罪を主張する弁護側と有罪獲得に威信をかける検察側は、来年春にも始まる裁判に照準を合わせている。

 今月上旬、東京都心部。ゴーン被告が付き添いの女性とともに、弁護人を務める弘中惇一郎弁護士の事務所ビルから姿を現した。記者が話しかけると立ち止まり、笑みを浮かべながら「No thank you」。記者の肩を軽くたたき、迎えの車に乗り込んだ。

 昨年十一月十九日、日産のビジネスジェット機で羽田空港に降り立った直後、元代表取締役グレゴリー・ケリー被告(63)とともに逮捕されたゴーン被告。今年三月に保釈されたときは、痩せてほおがこけていたが、今は少しふっくら。かつてのような近づきがたい雰囲気は薄れていた。

付き添いの女性とともに弁護士事務所を出るゴーン被告=7日、東京都内で

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 弘中弁護士によると、ゴーン被告は平日の日中は弁護士事務所で、裁判に向け資料を読み込む。事件関係者とされた妻キャロルさんとは会えていないが、時々訪れる娘と京都旅行を楽しむなどしているという。弘中弁護士は「悲観的には一切なっていない」と話す。

 「ゴーン・ショック」に揺れた横浜市の日産本社前では、帰路につく社員から「過去の人ですから」と冷めた声が多く聞かれた。

 四十代の女性社員は「ゴーンさんの話題になることは少なくなった。イメージダウンのせいで、販売面では影響を引きずってますが」と冷ややか。五十代の男性社員は「ゴーンさんが逮捕されずに今も会長でいてくれたら、こんなに業績は悪くなっていなかったんだろうな」と苦笑いした。

 ゴーン被告は仏自動車大手ルノーの会長も務めていたため、フランスでも「稲妻が走った」と衝撃的に報じられた。仏AFP通信のエチエンヌ・バルメール記者は「国民のショックも大きかった。今はそれほど関心は高くない」と話す。

 今後注目されるのは裁判の行方だ。東京地裁では、争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きが進行中。役員報酬を約九十一億円少なく有価証券報告書に記載したとする金融商品取引法違反罪は、来年三〜四月に初公判を開く方向で調整されている。週三回、集中的に審理される予定だ。中東オマーン経由で日産資金約五億五千万円を自身に還流させたなどとする会社法違反(特別背任)罪は、公判のめどが立っていない。

 検察側は、特捜部の捜査主任だった検事や英語が堪能な検事を公判担当部署に異動。検察幹部は「膨大な英文資料を解析できる人員が必要。事件をよく知っている者を投入し、万全を期している」と強調する。

 一方の弁護団は、ゴーン被告と戦略を練る。「ルノーに吸収合併されることを恐れた日産が、ゴーンさんを追放しようと検察と事件をつくり上げた」と公訴(起訴)棄却を要求。検察側が開示した証拠を分析し、無罪への道を模索している。 (山田雄之、山下葉月)

◆過度な拘束 変わる転換点に

 東京地検特捜部が求めた勾留延長を認めず、保釈は早期に−。東京地裁はカルロス・ゴーン被告を巡る一連の事件で、異例な判断を次々に打ち出した。通底していたのは、「むやみな身柄拘束は控えるべきだ」との考え。今後の刑事司法の指針となる可能性がある。

 「実刑判決が決まっていない段階では、身柄はなるべく拘束すべきでないという姿勢を東京地裁は明確に示した。司法が変わる大きな転換点になるのでは」。元刑事裁判官の水野智幸・法政大法科大学院教授(刑法)は変化を期待する。

 最初の逮捕容疑となった役員報酬の虚偽記載事件は、当初から「形式犯」との指摘があり、海外メディアを中心に「自白を引き出すための人質司法だ」などの批判が上がった。

 特捜部の請求通りに逮捕、勾留を認めてきたのは地裁だ。だが、特捜部が同じ事件で再逮捕したことで風向きが変わる。地裁は勾留延長請求を却下するという異例の対応を取った。

 ある現役裁判官は「かつては特捜事件は特別だという感覚があった。だが、同じ容疑で再逮捕し、かつ勾留延長まで認めろという特捜部の姿勢は、裁判官として受け入れられなかったのだろう」と推察する。

 ゴーン被告は百八日の身柄拘束後、保釈された。受託収賄罪などに問われた鈴木宗男参院議員の四百三十七日、詐欺罪などで起訴された学校法人「森友学園」の籠池泰典前理事長の二百九十九日などに比べ短い。

 水野教授は「十年前に裁判員裁判が始まったころから、身柄拘束は抑制的にすべきだという流れはあった。今回の事件は流れを決定づけたと思う」と指摘した。 (小野沢健太)

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