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【社会】

台風19号 早めの備えに難しさ 宮城・丸森町の行政区長

宮城県丸森町筆甫で、被災状況を話す北山地区の池田純一区長=8日

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 台風19号で十人が死亡するなど大きな被害を受けた宮城県丸森町で、避難呼び掛けに携わった行政区長の約九割に当たる五十五人が、住民から避難を断られる経験をしたことが共同通信の取材で分かった。呼び掛けたのが雨や風が本格化する前で「大丈夫」と言われたケースが多い。早期避難を促す難しさが浮き彫りになった。

 行政区長は、町から地区の連絡調整役として委嘱された住民。丸森町では災害時の情報提供や避難支援の協力者と位置付けられ、自主防災組織の役員を兼ねていることが多い。全九十八行政区のうち、七十九人から回答を得た。

 台風が接近した十月十二日に一人で避難するのが難しい高齢者や障害者を中心とした住民を回るなど、直接避難を呼び掛けたと答えたのは六十二人。このうち五十五人が、避難に応じなかった住人が一人以上いたと答えた。

 「高台で大丈夫だ」「家族がいるから」などと言われたケースが多く、「体が悪く避難所に行けば周囲に迷惑を掛ける」との声もあったという。

 十七人の区長は直接の呼び掛けはせず、自主防災組織の役員や民生委員に連絡するなどしていた。

 多くの区長が呼び掛けをしたのは、町全域に避難準備情報が出された十二日午後二時ごろから夕方にかけて。丸森町の雨量が急激に増加したのは午後六時ごろからで、区長の一人は「夕方までの雨量を見て、避難するべきか判断するのは住民には難しかった」と話す。

 町は午後七時五十分に避難指示を出した。いったん避難を断った高齢者が、午後十時ごろに避難支援を要望してきたケースもあったという。

 防災システム研究所(東京)の山村武彦所長は「行政は避難勧告を出して終わりではなく、河川の上流域で雨が降っていると伝えるなど、避難に向けて背中を押すことが必要だ」と指摘した。

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◆住民「自宅の方が安全」

 自宅が土砂崩れに巻き込まれ一人が死亡した丸森町筆甫(ひっぽ)の集落では、「高齢者も多く、離れた避難所を目指すより自宅にとどまる方が安全」との考えが、多くの住民に浸透していた。

 避難所は集落から山あいの道を五キロ以上進まねばならず、集落を含む筆甫北山地区の行政区長を務める池田純一さん(70)は「近くに避難所を作ったり堤防を増やしたり災害に強い町づくりをしないと悲劇は繰り返される」と語気を強める。

 十二日夕、一人暮らしの八十代女性に避難を呼びかけたが「家にいれば大丈夫」と断られた。午後五時半ごろから雨脚が強まり「隣の妻の声も聞こえない豪雨」になった。夜に外に出ると、家の前の道路は膝の上まで冠水し川になっていた。

 町はスピーカーで避難を呼びかけたが、雨音にかき消された。池田さんによると、町からの連絡はなく、緊急速報メールも運転中などで気付かなかったという。「各家庭に町が出す避難情報が入るようにしてほしい」と話す。

 翌朝周囲を確認すると、土砂につぶされた隣家は中心部がV字にへこみ、橋は崩れて集落は孤立していた。「言葉を失った。避難しようとしても無理だったかもしれない」と振り返る。住民は自衛隊などのヘリで救助され、避難所や知人の家に身を寄せる。集落は無人になった。

 池田さんは近所の住民とともに丸太でつくった応急の橋を渡って避難所から自宅に通い、流れ込んだ土砂の片付けを続ける。氾濫で流れが変わった川や田んぼを覆う土砂を見つめ「復興には十年かかる。時間がかかるほど集落に人は戻ってこなくなる」とつぶやいた。

<行政区長> 市町村から地区内の調整役を委嘱された住民で、条例などに基づき、任期や報酬が設定されている。市町村の広報紙を各世帯に配るなど自治体からの情報を住民に周知するほか、住民からの相談や要望を自治体側に取り次ぐ役割がある。災害時の連絡調整役となることも多い。

 

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