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【社会】

大学共通テスト 国語記述式 賛成派VS反対派 それぞれの言い分

 実施まで一年余りに迫った大学入学共通テストが、揺れ続けている。延期された英語民間検定試験に続き、国語と数学の記述式問題も教育関係者や高校生らが採点の公平性などから反対の声を上げる。国語の記述式について、導入を進めてきた荒瀬克己大谷大教授と、反対する紅野謙介日大教授に聞いた。(柏崎智子)

◆賛成 荒瀬克己・大谷大文学部教授「読解力養う授業につながる」

荒瀬克己大谷大教授

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 日本の子どもたちは、正確に読む力に課題があるとされる。文章の内容をきちんと受け取れているかを測るには、自分の言葉で表現してもらうのが有効だ。だから共通テストの国語に記述式を導入することになった。

 現行のセンター試験は、すべて選択肢から選ぶマークシート式。実際に高校生がどのように解いているか、視線の動きを追って調べた研究がある。すると、問題文の途中で設問にかかわる傍線部が出てくると読むのをやめ、関係する問題を解き、また続きを読み始めたという。全体を理解しなくても選択肢を比較し正解を探せるテクニックが通用するとしたら、読解力は養えない。

 自分で実際に文を書く記述式では、問題文を理解し、要素を再構築する力がないと解答できない。善悪は別として、大学入試が高校教育に及ぼす影響は大きい。五十万人以上が受験する共通テストでそのような問題が出れば、深く読み、書く力を育てる授業に変わることが期待できる。

 とはいえ、共通テストは一次試験。その記述式問題は、話題を理解し、一定の条件のもとで主語述語に気を付けて解答を書けるかという大学で学ぶ最低限の力を見られればいい。それ以上の力は、各大学の二次試験で見てほしい。

 「記述式では自己採点ができない」という反対意見もあるが、自己採点できないことこそが課題。自分の解答と模範解答を比較し、検討する力がないということだ。生徒に自己採点をする力を付けるにはどうするかが重要。採点を民間業者の学生アルバイトなどが行うことにも批判があるが、複数で採点し、迷う場合には最終判断者が責任を持って決めるなら、公平性は担保されるのではないか。

 今回の入試改革は、高校、大学の教育改革と一体で議論してきた。若者に必要な力を付けるという観点から、関係者が今後も努力を重ね、前に進めることが重要だ。

 あらせ・かつみ

 京都市立堀川高校長などを経て大谷大文学部教授(国語教育)。文科省高大接続システム改革会議メンバーとして大学入学共通テストを検討。中央教育審議会委員。

◆反対 紅野謙介・日大教授「採点優先で多様性と逆行」

紅野謙介日大教授

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 記述式問題の導入は、思考力、表現力、判断力を育てるためのはずが、大学入試センターが公表したサンプルや試行調査の出題を見ると、逆の結果を生むと言わざるを得ない。決められた枠内でしか考えない人間を育てる教育につながる。

 記述式は本来、受験者の数だけ解答のバリエーションがある。想定を超えた観点の解答があると、採点者は作問者と議論し、正解とするか、何点与えるかなど見解を一致させ、同様の解答を見過ごさなかったか採点し終わった答案も見直す。大変だが、多様な解答を引き出すのが記述式の意義で出題側にも刺激になる。

 だが、そんな採点ができるのは採点者と作問者が同じ部屋で作業できる規模まで。五十万人以上が受験する共通テストでは無理だ。

 採点は民間業者に委託され、アルバイト学生も行う。採点のぶれを減らすため、設問で受験者に、文頭の言葉を指定し考える前提を絞るなど、解答の条件を示して書き方を制約する。採点しやすさを優先して多様な答えを引き出す記述式の長所を殺すのは、本末転倒だ。

 受験者を枠にはめる傾向は、共通テストで記述式に限らず、いわゆる「実用的」な複数の資料を与えて読み解かせる新しい方針の出題全体に見られる。言葉を巡る教育なのに、決まりや法律に内包する不備や現実との矛盾などは吟味させず、与えた情報内でぱっと処理することを求めている。

 こういう入試になれば、高校生らは文章を深く読まずつまみ食いしてまとめる訓練を日常的に行う。矩をこえず、空気を読んで動くことを学ぶ。本来の伸び伸びした感性を押し込められ、苦痛だろう。こんな入試問題になったのは、政策決定過程に圧力や忖度など、きわめて日本的なものがあったためではないか。

 書かせることが必要なら、二次試験で記述式を課すことをセンターの入試を利用する条件として各大学へ提示することもできる。記述式のみならず、共通テストは見直すべきだ。

 こうの・けんすけ

 麻布中学・高校教諭を経て日本大文理学部教授(日本近代文学)。著書に「検閲と文学」「国語教育の危機|大学入学共通テストと新学習指導要領」など。

◆「大学入学共通テスト」とは

 すべての国公立大と9割の私立大が利用する、現行の大学入試センター試験の後継。解答を選択肢から選ぶマークシート式だが、「1点刻みの入試から脱却し思考力などを問う」などとして国語と数学に記述式問題を導入する。国語は短文(直近プレテストでは30〜120字以内)を書く問題を3問出題し、5段階評価する。採点者による判断のぶれや、受験生が正確に自己採点できず2次試験の出願先を的確に選べないなどと指摘されている。

 

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