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【社会】

車いすを拒否する「やさしい」タクシー ユニバーサルデザインの実情は

空車のユニバーサルデザインタクシーに手を上げたが素通りされる工藤登志子さん=新宿区で

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 最近、東京都内でよく見かけるミニバン型タクシー。車いすのまま乗車できるなど、障害者の利用を前提にしたユニバーサルデザイン(UD)の車両だ。東京五輪・パラリンピックに向けて導入が進められているが、記者が障害のある利用者に密着すると…。(原田遼、写真・佐藤哲也)

 全身の筋力が低下する筋ジストロフィーを患う工藤登志子(としこ)さん(35)=江戸川区=は手先のレバーで電動車いすを操作し、一人で通勤や買い物ができる。

 今月三日、「流しのUDタクシーをつかまえて、神保町の事務所に移動したい」という工藤さんと、都庁前で待ち合わせした。

◆目が合ったのに…通り過ぎるタクシー

 いきなり壁となったのはタクシーを呼び止める場所だ。歩道と車道の境には段差やガードレール、植え込みがあり、車いすが乗り入れられるスペースがほとんどない。

 適当な場所まで移動すること五分。工藤さんは見通しのいい幹線道路で空車を見つけると、少し車道にせりだし、三十メートル手前で右手を上げた。しかし車は減速せずに目の前を通過。障害で腕は顔の高さまでしか上がらないため、「私が見えづらかったかな」。

 十分後、再び空車が来た。今度は減速したが、またしても通過。「確実に運転手と目が合った。車いすと知って止まってくれなかった」。さらに続く二台の空車とも「目が合った」が、そのまま行き去った。いずれもスピードを落としたので、記者には故意に通り過ぎたように見えた。

◆1時間20分経過 「何のためのUD…」

 一時間がたち、工藤さんの体調を心配した記者がUDタクシーをつかまえることに。すると車は止まったが、乗客が工藤さんと知ると、「乗せ方が分からない」と二度断られた。三台目も当初は「電動は重量オーバーだ」と拒否されたが、「体重含めて規定の二百キロ以内です」と食い下がると、渋々乗車が認められた。

 タクシーを探しはじめて一時間二十分がたっていた。「何のためのUDタクシーなのか」。工藤さんの声は震えていた。

◆全国2万台、来年度までに倍増計画

 全国ハイヤー・タクシー連合会によると、UD型は今年三月時点で約一万二千台が整備され、前年同期の二・五倍に増えた。背景は充実した行政の支援。一台約三百五十万円するが、国と自治体から合計百万円程度補助されるケースもあり、買い替え時期に合わせて一気に導入が進んだ。

 国土交通省は現在、福祉専用タクシーとの合計で約二万台が障害者に対応できるとし、来年度までに合計四万四千台の普及を目指す。政府が二〇年大会に向けた行動計画で「共生社会に踏み出す一歩にしたい」と打ち出したからだ。

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 それなのに障害者が恩恵を受けられない。十月三十日、障害者団体のDPI日本会議が乗車実験を試みた。全国のべ百二十人の車いす使用者が路上、停留所、電話予約などでUDタクシーに乗ろうとしたところ、三割弱が拒否にあった。「停留所でUDの順番が来るまで待っていたが、UDが先頭にきた途端に逃げられた」という事例も。

 国交省は「車いす利用者を正当な事由なく断ることは道路運送法違反」とし、先月、DPIの調査を受けて、事業者に改善を通知した。しかし工藤さんへの同行取材はその後のことで効果はどこまであったのか。

 DPIの佐藤聡事務局長は悲しむ。「鉄道と違い、運転手一人で営業するタクシーは個人の意識や考えが見えやすい。障害者に無関心な市民の実像を映し出しているのでは」

◆なぜ拒むのか 準備に平均11分「稼げない」の声

助手席を前方に畳み、後部座席を後方にはね上げて車いすのスペースを確保=いずれも東京都江戸川区の東京タクシーセンターで

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 UDタクシーに車いすのまま客を乗せる際は、車内の切り替えが必要だ。助手席を前方に倒し、後部座席は後方に跳ね上げてスペースを作る。スロープを設置して客を乗せた後、畳んだ後部座席の付け根からベルトを引き上げて車いすを固定する。

備え付けのスロープを設置して乗客を乗せる

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 メーカーは所要時間を「三分程度」とするが、DPIによる十月の実験では乗車に平均十一分、最大二十一分以上かかった。降車も平均五分、最大十五分。DPIの事務局には匿名の運転手から「時間がかかる分、稼げなくなる」と苦情もくるという。

車いすを前に向け、ベルトで固定

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 調査では「スムーズに乗れた」という例も多くあった。調査員の評価が高かったワイエム交通運転手、吉沢昂祐(こうすけ)さん(36)は実験の日、五分程度で発車。吉沢さんは東京新聞の取材に「車いすの方への対応は初めてで少し驚いたが、日ごろ練習していたので自信はあった」と振り返った。昨年秋の新人研修で学んだ上、三カ月に一度は操作方法を復習していたという。「困っている人がいれば、少しでも力になりたい」と信念を語った。

 (12月22日朝刊TOKYO発に掲載)

 

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