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【社会】

ゴーン被告 するり 出国記録残さず 旅券預けたまま 弁護団も「寝耳に水」

記者会見するカルロス・ゴーン被告の弁護団の弘中惇一郎弁護士(中)=31日午後、東京都千代田区で

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 会社法違反(特別背任)罪などで起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が、保釈条件に反してレバノンに逃亡したことが明らかになった三十一日、弁護団は「寝耳に水で当惑している」と驚きを隠さなかった。被告名での出国記録は確認されておらず、偽造パスポートを使った疑いを指摘する声もある。 (山田雄之、山下葉月、小野沢健太)

 「本当にびっくりしている。本人とどうすれば連絡が取れるかも分からない」

 ゴーン被告の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は三十一日午後、報道陣に困惑した様子で応じた。

 弘中弁護士によると、ゴーン被告と最後に会ったのは十二月二十五日。次回は一月七日の弁護団会議で顔を合わせる予定だった。

 ゴーン被告は十二月二十四日のクリスマスイブには弁護人立ち会いの下、レバノンにいる妻キャロルさんとビデオ会議システムで面談したという。弘中弁護士は「レバノンに行くという話題は出なかった」と振り返った。

 ゴーン被告が国籍を有するレバノンなどの三冊のパスポートは、弁護団が預かっている。弘中弁護士は出国の経緯について「心当たりがない。相当大きな組織が動いたのではないか」とした上で、弁護団の関与は「ない」と明言。「保釈条件に違反していると考えざるを得ない」と話した。

 ゴーン被告がどのように出国したのか、法務・入管当局は情報収集を進めている。ある幹部はゴーン被告名の出国記録は見当たらないと明かした上で、「偽造パスポートを使い、地方の空港から出国したのではないか」と推察した。

 元入国審査官の木下洋一氏は「精巧な偽造パスポートはいくらでもある。荷物箱の中に紛れ、審査を受けずに出国した可能性も否定できない」と指摘した。

 東京地裁は今後の裁判日程について「未定」とするが、刑事裁判の一審は軽微な事件を除き、被告が出廷しなければ開くことができない。金融商品取引法違反罪でゴーン被告とともに起訴された日産の元代表取締役グレゴリー・ケリー被告(63)は弁護人に「驚いた。自分の裁判はどうなるのか。予定通り早く進めてほしい」と話しているという。

◆監視に重大な欠陥

<渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 世界的に著名なゴーン被告が保釈条件に明白に違反しているのに堂々と海外に脱出したことは、日本での保釈中の監視態勢や裁判所、検察庁、出入国在留管理庁の連携などに重大な欠陥があることを露呈させた。外務省を通じて引き渡しをレバノン政府に請求しても期待通りの協力は難しく、被告が再び日本で刑事裁判を受ける見込みは事実上なくなった。このため「だから保釈は認めず、被告は閉じ込めておくべきだ」という誤った風潮が強まることが懸念されるが、逃走防止策を立法で強化することを優先するべきだ。

◆保釈に水差す

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<解説> レバノンに逃亡したゴーン被告は「政治的迫害から逃れた」と自身を正当化したが、無断での海外渡航は保釈条件に反するもので、日本の司法制度をないがしろにする行為だ。このまま裁判が開かれない可能性が高く、「裁判で潔白を証明する」との従前の主張にも疑わしさが生じた。

 ゴーン被告は二〇一八年十一月、役員報酬の不記載という、いわば「形式犯」で逮捕され、同じ容疑で再逮捕された。海外メディアを中心に、否認すれば身柄拘束が長引くとされる「人質司法」との批判が噴出。裁判所内にも、勾留を求める検察に懐疑的な声が漏れた。

 二度目の特別背任罪での起訴後、わずか三日後という「異例の早さ」(法曹関係者)で保釈されたゴーン被告。裁判所が保釈に踏み切ったのは、海外渡航の禁止や監視カメラの設置など、弁護人が提示した十五もの保釈条件をゴーン被告が厳守し、必ず裁判に出頭すると約束したからだ。

 刑事訴訟法は、裁判官が職権で保釈を決める際、証拠隠滅や逃亡の恐れだけでなく、被告の不利益の程度も考慮すると規定する。近年は被告の裁判準備の必要性などをくみ取り、「過度な身柄拘束は控えるべきだ」という考えが定着。保釈率は年々上がっている。

 ゴーン被告は、十五億円もの保釈保証金が没収される恐れがありながら、保釈条件を破り出国した。異例の行為とはいえ、保釈を認める潮流に水を差しかねない。(池田悌一)

◆「政治的迫害から逃れた」 声明全文 

 前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告が米国の代理人を通じて30日に発表した声明の全文は次の通り。

 私は今、レバノンにいる。もはや、有罪が前提で、差別がはびこり、基本的人権が否定されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなる。(司法制度は)国際法や条約に基づく日本の法的義務を著しく無視するものでもある。私は裁きから逃れたのではなく、不正と政治的迫害から逃れた。やっとメディアと自由にコミュニケーションを取ることができるようになった。来週から始めるのを楽しみにしている。(ニューヨーク・共同)

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