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【社会】

<東京2020 祝祭の風景> 第1部 ブラインドサッカー(3)

菊島宙選手

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 完全な男女平等−。ブラインドサッカーの国内大会のモットーだ。

 接触プレーも多いが、女子選手は男子と同条件で戦う。日本ブラインドサッカー協会の登録選手約三百人中、女子は六十七人いる。

 昨年十二月一日。鳥居健人(けんと)(28)は東日本リーグの決勝の舞台、小石川運動場(東京都文京区)に立った。所属するクラブチーム「フリーバード目白台」(同区)は初優勝を狙う。

 相手は「埼玉ティーウイングス」(さいたま市)。エースはなんと、女子高生である。都立八王子盲学校の高等部二年、菊島宙(そら)(17)。ここまで24得点のリーグ得点王だ。

 前半、埼玉は菊島が先制シュートを決めたが、フリーバードは鳥居の同点弾ですぐに追い付いた。菊島がボールを持てば鳥居が奪いに行き、鳥居がボールを持てば菊島が絡む。両エースが激しく競り合った。

 菊島は生まれつき弱視だった。幼い頃から頑張り屋さんで、普通の小学校に通う傍ら、健常者の社会人男性に交じってサッカーの基礎をみっちり学んだ。

 健常者の女子チームに所属したこともある。しかし中学一年の時、夜間練習で暗くてボールが見えず取り損なった。チームメートにひどく怒鳴られ、心が折れた。

 「おまえにはブラインドサッカーがあるじゃん」。励ましてくれたのが、父親で埼玉の監督の充(43)。最初は、わずかな視力をアイマスクで封じてプレーするのが怖かったが、慣れると並外れた力を発揮した。

 ブラインドサッカーのドリブルは、両足間でボールを左右に転がすように行うことが多い。しかし、菊島は健常者と同様、前に蹴り出すドリブルが身に付き、スピードが違う。

 フリーバードと埼玉の決勝は、1対1で後半に入った。

 実は五カ月前、フリーバードは埼玉に1対7と惨敗している。屈辱を晴らそうと、この日は対菊島用の作戦を用意していた。

 ゴールキーパー以外の全四選手がひし形の密集陣形を組み、菊島の前に壁を作る。両サイドはがら空きになるが、そこからのシュートはキーパーが全力で止める。全員が体を張った。

 一方、攻めの柱の鳥居は、数少ないチャンスを逃さなかった。ドリブルで攻め上がり、菊島をフェイントで抜く。別のディフェンダーもかわし、最後はゴール前の相手の足元を抜くシュートを放った。

 「打った瞬間、入ると思った」。会心の逆転弾。2対1で初優勝を飾った。

 「油断しちゃった」とは敗れた菊島の弁だ。夢はパラリンピックで世界一になること。でも、今夏の東京大会には出られない。

 なぜなら、国内大会と違って男子競技しかなく、女子が男子チームに交じって参加する規定もないから。世界的に女子選手が少ないことが背景にある。

 「競技人口を増やさないとなぁ」

 娘の夢のためでもあるのだろう。充は、ブラインドサッカーの競技体験会を各地で開き続けている。 =文中敬称略

東日本リーグの決勝で、鳥居健人選手(右)と菊島宙選手(左)が競り合う=東京都文京区の小石川運動場で

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