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【社会】

<東京2020 祝祭の風景> 第1部 ブラインドサッカー(4)

アイマスクを着け、ブラインドサッカーを体験する児童ら

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 鳥居健人(けんと)(28)が軽くサッカーボールを蹴ると、六、七メートル先のコーンに見事命中した。

 鳥居は全盲である。見えない両目を、さらにアイマスクで覆っている。

 「すげー」。昨年十二月、東京都墨田区立八広(やひろ)小学校の体育館。四年生の男女の歓声が響いた。

 ブラインドサッカー元日本代表の鳥居にとって、この程度はお手の物だ。しかし、子どもたちにはサッカーの神様に見えるらしい。「教えて」と、手をつかむ子どもたち。鳥居を囲む輪ができ、一緒にパス回しに興じた。

 障害者スポーツの楽しさを学びながら、障害への偏見を取り去ろう−。こんな発想で、日本ブラインドサッカー協会が学校に選手を派遣し、体験授業を行っている。名付けて「スポ育」。二〇一〇年以降、三千カ所で実施し、十三万人超が参加した。

 鳥居は昨年秋から講師役を担当している。この日、子どもたちにもアイマスクを着けさせ、十メートルほど走ってもらった。「ぶつかりそうで怖い」「いつもみたいに速くは走れない」。興奮した声が相次いだ。

 ブラインドサッカーはフィールドの四選手とゴールキーパーの計五人でチームを構成するが、もう一人、コート外に味方が付く。「ガイド」と呼ばれ、目の見える健常者が担当する。

 味方の選手がゴールを狙うとき、「あと五メートル」「四五度」などとシュートの距離や角度などを伝える、大事な役目だ。

 鳥居が伝えたいのもそこにある。コミュニケーションの大切さ。

 アイマスクを着けた子どもがシュートを狙うが、ボールはあさっての方向に飛ぶ。「どうすれば、蹴る方向を教えてあげられるかな」と鳥居。

 目が見える状態の子どもたちが「もう少し右、右」と誘導するが、「右」と言っても、自分から見た右と、正対する相手にとっての右は逆方向になる。

 「見えない人の気持ちになって考えよう。相手を思いやる心を忘れないようにね」。鳥居は助言する。

 九十分の授業が終わると、子どもたちは鳥居をサイン攻めにした。鈴木葵惟(あおい)さん(10)は「目の不自由な人の気持ちや、スポーツの楽しさが分かりました」。大久保千縁(ちより)さん(10)は「街で会ったら、助けてあげられる自信が持てました」とにっこりした。

 今夏の東京五輪・パラリンピックを一番楽しみにしているのは、子どもたちかもしれない。大会組織委員会が、子ども向けとして行政に販売する「学校連携観戦チケット」。全国からの申し込みは約百三十万枚で、半分以上はパラリンピック競技という。

 「皆が隣人に思いやりを持てば、障害という概念はなくなると思うんです」と鳥居が語る。「料理が上手な人がいたり、方向音痴な人がいたり…。得意や苦手は誰にでもあるでしょ。視覚障害者は見ることが苦手だけど、それは個性の一つにすぎないんじゃないかな」 =文中敬称略

体験授業で、笑顔を見せる鳥居健人選手(右)=いずれも東京都墨田区立八広小学校で

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