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【社会】

増える性犯罪加害者の匿名裁判 「被害者保護」が理由だが…

わいせつ事件の公判が開かれた千葉地裁などが入る庁舎=千葉市中央区で

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 勤務先の小学校内で教え子の女子児童に性的暴行やわいせつ行為を繰り返したとして、強制性交罪などに問われた元千葉市立小教諭の男(36)に千葉地裁は先月、懲役14年の判決を言い渡した。異例だったのは、「被害者保護」を理由に被告を匿名にして審理が進んだこと。専門家は「安易な判断は国民の知る権利が侵されかねない」と指摘する。 (佐藤直子)

◆原則は公開法廷 当事者の意向で情報伏せる

 判決によると、被告は二〇一三年一月〜一昨年七月、二つの小学校の教え子だった当時六〜十二歳の女児七人に性的暴行を加えたり、わいせつな行為をしている様子を動画で撮影したりした。忘れ物をした女児らを「指導」の名目で空き教室や倉庫に呼び出して犯行に及んでいた。

 千葉地裁が被告の名前を伏せたのは、刑事訴訟法二九〇条の二が根拠。性犯罪被害者の保護に力点を置いた規定で、当事者側から申し出があった場合、裁判所は身元の特定につながる情報を法廷で明らかにしないと決められる。千葉地裁広報課の担当者は「被告名もこの規定に当てはまると判断した」と説明する。

 憲法八二条は「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」と定めており、被告名も公にするべきだと解釈されている。

◆横浜、水戸の審理でも被告は匿名に

 九州大法科大学院の田淵浩二教授(刑事訴訟法)は「国家権力の恣意を排除するためにも、裁判は公開が原則になっている。特に被告が無罪を争っている場合、公開であることが利益につながる。被害者側は『これ以上傷つきたくない』との思いから被告の名前を出さないよう望むのだろうが、その要請だけに基づいて決めてしまうと、国民の知る権利の制限にもつながる」と裁判所に慎重さを求める。

 そうした考えがありながら、ここ数年は被害者保護の流れが強まり、特定を避けるために法廷で被告の名前が伏せられるケースが出ている。

 横浜地裁は一三年、女子中学生にみだらな行為をしたとして児童福祉法違反などに問われた元中学校教諭の男の裁判で、被害者名と共に被告の名前を伏せた。水戸地裁も一五年、養女の胸などを触ったとして強制わいせつ罪に問われた男の名前を匿名にして審理し、懲役三年、執行猶予四年の判決を言い渡した。

◆塾で雇われる可能性も 本当に被害者のためになるのか

 禁錮以上の刑が確定すると教員免許は失効するとはいえ、塾など子どもが多くいる職場で働くのは可能。名前が明らかになっていない以上、事件のことを相手に知られずに雇われる可能性はある。田淵氏は「加害者の名前が分かれば被害者が特定されるといっても、近しい関係者は把握しているだろう。逆に外部の人間が知る可能性がどれだけあるのかを考えないといけない」と唱える。

 一方でインターネットの普及などにより、わずかな情報から被害者が特定され、情報が広まる恐れは否定できない。性犯罪や被害者の支援に詳しい千葉大法科大学院の後藤弘子教授(刑事法)は「性犯罪は『被害者にも落ち度があった』などとバッシングを受けることが多い。自らの特定につながる情報を出したくない気持ちは理解できる」と説く。

 その上で後藤氏は「裁判で加害者の名前が明らかにならないことが、必ずしも被害者のためになるとは限らない。性犯罪の加害者は親族など顔見知りが多く、名前を出すことによって、重い罪であると本人も社会も自覚する。むしろ、被害に遭ったことは恥ではないとの考えが広まり、被害者をよりサポートする社会へと変えていくことこそが必要だ」と強調した。

 

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