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【社会】

触って知る地図、広がれ 誰もが「読める」凹凸の印刷

防災マップや観光案内などの触知図を前に話す山崎純さん(右)、坂本泉さん(左)ら=2018年6月、東京都文京区で

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 視覚障害者が凹凸を触ることで地図や案内図を理解できる「触知図(しょくちず)」の利用が広がっている。以前は凹凸だけが印刷されたものもあったが、最近は図も描かれて障害の有無によらず使える触知図が普及している。その量産技術を開発し、普及に貢献した東京都内の印刷会社の技術者、山崎純さんが昨年十月、六十三歳で急逝した。東京五輪・パラリンピックを前に、山崎さんの遺志を仲間たちが受け継ぐ。 (中村真暁)

 JR千葉駅(千葉市)のフロアマップ。構内のエレベーターやトイレの位置がカラー印刷され、その図に沿って凹凸が付いている。千葉県網膜色素変性症協会などが山崎さんの技術を使い、二〇一七年に作成した。「晴眼者(見える人)と歩行訓練するときに使います。全体像が頭に入り、持って確認できて助かる」と会長の渡辺友資枝(としえ)さん(58)は話す。

 凹凸は特殊な透明インキで印刷してある。印刷を手がけたのが、山崎さんが勤めていた「欧文印刷」(東京都文京区)だ。山崎さんは一一年ごろに量産に向いた技術を開発し、その後同社は触知図を扱うようになった。これまで世界遺産の二条城(京都市)やテーマパークの案内図、横浜市瀬谷区の防災マップなどを作ってきた。

 東京大会への関心の高まりとともにカレンダーなど大会の関連グッズのほか、公共施設の案内図、企業のフロアマップなどの依頼も来るようになったという。

 従来の触知図作成は(1)図などを印刷する(2)図などに沿って透明インキで再印刷したり、紙に圧力をかけたりして凹凸を付ける−という二工程が一般的だった。山崎さんは、これを一つの工程でできる技術を開発。通常のオフセット印刷機を改良するなどし、新聞紙大の紙に一時間当たり約五千枚の触知図を印刷でき、従来より高効率、低コストを実現した。

 山崎さんは視覚障害者らと意見交換を重ね、改良を続けた。同社の執行役員の坂本泉さん(62)は「『凹凸が分かりにくい』と厳しい声も寄せられたが、休みの日も熱心に勉強していた」と振り返る。

 「互いを分かり合えるよう、皆が一緒に使える物を作りたい」。山崎さんは脳出血で倒れる二年ほど前、記者が初めて取材した際にこう語った。

 最後の仕事となったのは触って鑑賞できる葛飾北斎「富嶽三十六景」の冊子を元にデザインした日本酒の触知図ラベルだ。山崎さんと一緒に冊子を作成した常磐大の中村正之教授は「量産でき、さまざまな人に渡せる。見える、見えないをつなぐ山崎さんの思いを伝えなければ」と心に決める。

 点字や触知図の読みやすさの評価などを研究している早稲田大人間科学学術院の藤本浩志教授(福祉工学)は、山崎さんの成した仕事について「触知図や点字の普及に大きく貢献し、目の見える人もこうした印刷物に触れる機会が増えた。視覚障害者の存在が意識され、共生社会の実現につながっている」と話している。

<触知図> 視覚障害者が指で触って分かるよう、線や点に凹凸が付いたフロア図やイラスト、絵画など。点字では分からない画像情報が理解できる。駅や公園などの施設の案内図は「触知案内図」、日本列島など広範囲な地図は「触地図」とも呼ばれる。

葛飾北斎の「富嶽三十六景」をデザインした触知図の日本酒ラベル。波の形などに合わせて凹凸が付いている

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