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【社会】

かさない?貸します! 傘のシェア事業「アイカサ」 鉄道と連携、広がる

傘のデザインはさまざま。東京駅近くの「古地図」が描かれた傘(左)、上野動物園の「パンダ」のイラストが描かれた傘(奥)、明るい色使いの傘

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 傘がない−。突然降りだした雨がもたらす悲哀は、井上陽水さんのヒット曲を聴くまでもなく、誰しも一度は経験あるはず。それをITを生かしたサービスで解決する動きが広がっている。駅や商店に置かれた傘を、低料金で借りられる「アイカサ」で、運用開始1年で渋谷や新宿、東京などの主要駅周辺に広がった。ビニール傘の使い捨て削減にもつながりそうだ。

◆出張に便利

 冷たい雨が降る昨年十二月のある日。東京駅八重洲口の地下街で、大阪市北区の会社員山見徳裕さん(44)がアイカサの傘立てから傘を一本、取り出した。このままでは傘は開かない。持ち手に付いたQRコードをスマートフォンで読み取る。すぐに三桁の暗証番号をスマホが受信。持ち手に埋め込まれたダイヤルロックをその番号に合わせると、傘が開いた。

スマホからQRコードをスマホに取り込み、暗証番号を入れて利用する

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 山見さんのアイカサ利用はこの日が初めて。「簡単で、何の問題もないね。週一回は東京へ出張に来る。傘は荷物になるので、駅で借りられるのはいい」と喜ぶ。傘は東京駅周辺の古地図を描いた地域オリジナルのデザイン。「持っていて恥ずかしくない。おしゃれだね」と高評価だ。

小田急線新宿駅に置かれたアイカサ

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 利用登録は無料通信アプリ「LINE(ライン)」でできる。料金は一日七十円で、一カ月の最大課金は四百二十円。だから雨が続いた月に十日間借りても四百二十円で収まり、ビニール傘一本より安い感覚だ。スマホ決済「LINEペイ」か、登録したクレジットカードで支払う。返却は、借りたところと別でも、アイカサの傘立てならOK。傘立ての場所はスマホで検索すると分かる。

◆全国で1万本

 「駅から歩くことが多い都心で、困るのは雨。傘のシェアリングサービスがあればいいなと思った」。運営する「Nature(ネイチャー) Innovation(イノベーション) Group(グループ)」(渋谷区)の丸川照司社長(25)は振り返る。

 経営学を学ぼうとマレーシアに留学中に事業を思い付き、二〇一八年六月に会社を設立。カナダのバンクーバーで実施されている傘のシェアリングサービスなどを参考に構想を練り、同年十二月に渋谷地区の飲食店やカラオケ店など約五十カ所で始めた。

 その後、傘の忘れ物に苦慮する首都圏の鉄道会社などと提携して事業を急拡大。京急電鉄やJR東日本、西武鉄道などのほか、九州では西日本鉄道と手を結ぶなど、勢いは関東にとどまらない。現在は全国約七百カ所に傘立てを設置し、一万本の傘を抱える。

レンタル傘の事業展開をする「アイカサ」の丸川照司社長

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◆特注おしゃれなデザイン

 デザインにも力を入れる。小田急電鉄は一九年十一月末、小田原線の新宿〜町田駅間で導入。その際、紺色の生地に路線図と駅を星座のように描いた傘を特注した。「男女問わず使いやすい色で、おしゃれな絵柄を社員みんなで考えた」と同社の今野顕一さん(34)。この夏までに、工事中で設置できない駅を除く全線の駅に配置する予定だ。「駅利用者の利便性が上がるし、傘の使い捨てが減れば環境に優しい」と今野さん。

 傘メーカーでつくる「日本洋傘振興協議会」(台東区)によると、国内の傘流通本数は推計で一億二千万〜一億三千万本。田中正浩事務局長は「具体的な調査はないが、使い捨てのビニール傘が高い割合を占めるとも聞く。アイカサが広がることで、一人一人が自分の持つ傘を見直すきっかけになれば」とエールを送る。

 「相合い傘」や「innovative(革新的)」の頭文字「I」にちなんで名付けられたアイカサ。丸川社長は「将来は利用できる傘を百万本まで拡大したい。雨のせいで、買いたくないのに傘を買うという状況は、あるべき姿ではない」と力強かった。

 文・梅野光春 写真・佐藤哲也

(2020年1月14日朝刊「TOKYO発」面に掲載)

 

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