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【300文字小説】

めぐりあい 小山肇美

イラスト・瀬崎修

写真

 冬の間、枯れた木のようだった山椒(さんしょう)が芽吹く頃、竹藪(やぶ)で筍(たけのこ)が顔を出す。

 昔から里の人々は、山椒と筍は「出会いもの」と呼び、筍料理に木の芽を添えて味わってきた。

 春先限定の出会いの時期が過ぎ、山椒の木に青々と葉が繁(しげ)る頃、その葉裏に揚羽蝶(あげはちょう)が卵を産み付ける。孵化(ふか)した幼虫は、ぐんぐん暑くなる季節に山椒の葉を食べてサナギになり、やがて羽化して美しい揚羽蝶になる。

 人間が下手な剪定(せんてい)をすれば、山椒の木は枯れる。ところが、揚羽蝶の幼虫に丸坊主になるほど食べられても、春になれば山椒は芽を吹き筍に出会う。

 自然界は、神秘的なめぐりあいに満ちあふれているのだ。

 (三重県松阪市・主婦・60歳)

◇ ◇ ◇ ◇

防災教育 植村茂己

 昨今、自然災害は大規模かつ頻繁に発生するようになってきた。

 各地で防災教育が盛んに行われるようになり、自宅付近でも「災害に対する備え」をテーマとした教室があったので私も参加してみることにした。

 冒頭、講師が、「『天災は○○○○やってくる』と言いますが、○○○○が分かる人?」と私たちに聞いてきた。

 すると、ある子どもが、「『毎年毎年』です」と答えた。

 別の子どもは、「『次から次に』です」。

 さらに、もう一人の子どもが、「『想定外で』です」と答えた。

 それぞれ「なるほど」と思ったが、最近物忘れが激しくなった私にとっては、今でも「忘れた頃に」が適当な言葉だなぁと思いつつ、災害と物忘れの備えに着手すると決意した。

 (東京都足立区・公務員・54歳)

◇ ◇ ◇ ◇

春の名前 水野真由美

 春、自然公園へ出かけた。

 チューリップが満開で、それはそれは美しかった。鮮やかな色の数々に圧倒された。

 それともう一つ、私の心をとらえたのはチューリップの名前だった。

 「ピンクのマジック」…ピンクのフリルを幾重にも重ねて、華やかな少女みたい。

 「バレリーナ」…花びらの先っぽがピンと尖(とが)っている、オレンジの踊り子。

 「はちみつミルク」…クリームイエローと白の二色で、おいしそう。食いしん坊で優しい幼子かな。

 チューリップに、こんなにも多様な名前があったんだ。

 さて。

 この子にはどんな素敵(すてき)な名前を付けようか。

 夕暮れの風に吹かれながら、私はそっと自分のお腹(なか)をさすった。

 (横浜市青葉区・保育士・29歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 春の訪れを待って季節ならではの香りと歯触りが顔を合わせる、小山肇美さんの「めぐりあい」。物語はさらに続いて、美しいチョウの誕生。これまた、自然の恵みですね。

 恵みだけでなく、時に自然は大きな災害ももたらします。そこで大切なのが、植村茂己さんの「防災教育」。子どもたちの自由な着眼に負けぬよう、大人もしっかり備えと心構え。

 色とりどりに咲き誇る花園を散策しながら、水野真由美さんの「春の名前」。かわいらしいイメージとすてきなネーミングで心を満たしたら、次は一番大切な名前選びが待ってます。

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