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【300文字小説】

変わんねー 荒木美幸

イラスト・瀬崎修

写真

 子どもの頃、屋根より高い樫(かし)の木があった。

 誰よりも高く登ってやる。細い枝もなんのその、足をかけ、ずんずん登っていった。一緒に登った男子が下を見てビビっている。

 やったー! とうとう、てっぺんまで来た。樫の木の頂上には爽やかな風が吹いていた。

 そして言われた、「おてんばだなぁ」。

 五十年経(た)ったスイミングプール。

 誰よりも長く泳いでやる。スピードを上げ何度もターンする。足なんか着くものか。休憩している横のレーンのオヤジを追い抜いた。一時間後、爽やかな水をしたたらせプールを上がる。

 そして言われる、「意地っ張りだなぁ」。

 (愛知県稲沢市・無職・60歳)

◇ ◇ ◇ ◇

花と美化 森秀雄

 今日も一日働き、疲れた身体を引きずって帰ってきた。

 だが家までの道筋がその疲れを癒やしてくれる。

 窓枠に吊(つる)したプランターや塀沿いの植木鉢には、色とりどりの草花が、こぼれんばかり。

 大きな家の庭には、それなりの品種が誇らしげに咲き誇っている。

 そんな道端のところどころに、アスファルトのほんの小さな割れ目から伸びる見栄えのしない草花が風に揺られていた。

 そのしょぼくれた姿が、なんとなく自分のようで切なくなったけど、

 「なぁ、お前スゲエよ! ガンバレな!」

 と声をかけて行き過ぎた。

 アッ!

 そういえば明日は町内の大掃除だったっけ。

 ヤバ、引き抜かれちゃうかな〜。

 (名古屋市緑区・パート・65歳)

◇ ◇ ◇ ◇

お菓子のおねだり 森本さくら

 五歳くらいの子どもが、「ねぇねぇママぁ、このお菓子が食べたい」。

 するとお母さんは、「いいよ。今日一緒に食べようか」と喜んで買ってくれる。

 五年後、子どもは十歳。

 「ママ、このお菓子買って」

 「しょうがないなぁ。今日だけよ」と、しぶしぶ買ってくれる。

 それから五年経(た)って、十五歳。

 「ねぇママ、このお菓子買ってぇ、お腹空(す)いたぁ」

 「絶対だめ! いまダイエットしてるんでしょ」

 「え、ダイエットって何? お願いしますぅ、勉強には糖分が必要なんですぅ。次の定期テストで結果残すから、お願い! 買ってください」

 「約束だからね」

 *今回の調査結果

 お菓子をめぐる母子の会話は成長していく。

 (名古屋市昭和区・中学生・14歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 持って生まれた性格はいつまで経(た)っても、荒木美幸さんの「変わんねー」。やり遂げた後の爽快感がたまりません。負けず嫌いの自分を相手に、今度は何に挑戦しましょうか。

 あるいは華やかに、あるいは清楚(せいそ)に、町の風景を彩る草花を眺めて、森秀雄さんの「花と美化」。名も無い植物を励ましたい一方、住民としては放置もできず。悩ましいところです。

 中学生作家の愉快な調査報告、森本さくらさん「お菓子のおねだり」。さらに観察を続けて、五年後二十歳…二人の間で交わされる会話は、どんな風に成長しているでしょう?

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