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【300文字小説】

分けっ子 窪田重子

イラスト・瀬崎修

写真

 片付けの手を休めてテレビを観(み)ると、アメリカ西部開拓時代の大草原。

 初めて学校に行く幼い姉妹に、母親は『宝箱』から自分の使った教科書を取り出し、二人に与えている。

 そうそう…私たち団塊世代も、兄姉のお古の教科書を使ってた。

 使用感満載の教科書。でも、一人っ子がうらやむオマケが。まとめの設問には、お姉ちゃんたちのたどたどしい文字で答が書き込んであった。

 あの頃のハーモニカや書道の道具には、兄姉だけでなく年齢の近い叔父叔母の名前を記した跡も…。

 あ〜、駄目だめ!

 楽しい老後を目指して断捨離を始めたのに、言い訳ばかり探してる。 (岐阜市・無職・69歳)

◇ ◇ ◇ ◇

戯れの朝のあいさつ 篠原文逸

 朝日が昇ると、待ってましたとばかり森の中から聞こえてくるのは、あまりに力強い小綬鶏(コジュケイ)の声。

 「ちょっとこい…ちょっとこい…」

 最初は、誰かが叫んでいるのかと思った。まるで、拡声器を使っているかのよう。

 こちらも負けずに口笛で鳴き声を真似(まね)てみる。

 「ぴっぴぴぴっぴぴぴい…ぴっぴぴぴっぴぴぴい…」

 一瞬、静まりかえる森の中。

 でも、すぐに!

 「ちょっとこい…ちょっとこい…」

 さらに勢いづいた鳴き声が響き渡る。こちらも負けずに口笛で呼びかける。

 「ひっぴひっひぴひい…ひっぴひっひぴひい…」

 森の中から、笑い転げるような声が返ってくる。

 「ちょっとこい…ちょっとこい…」

 戯れの朝のあいさつのひととき。

 (東京都東村山市・公務員・62歳)

◇ ◇ ◇ ◇

とある女子の会話 河田紗弥

 最近、どこにいてもアイツの影を感じる。

 「タピオカ美味(おい)しいよね。なんだかんだで飲んじゃうしね」

 ズゴーッと音をたてて最後のタピオカを吸いきった友人が言った。

 「私は騒がれる前から飲んでた」

 「二回目のブームだからね。そういう人多いんじゃない?」

 最後のタピオカがとれなくて四苦八苦しながら見回すと、フードコートはタピオカを持った人でいっぱい。

 「ブームというミルクティーの中に沈む人間というタピオカ」

 「うまいこと言ったみたいな顔してるけど、全く意味わかんないからね」

 友人がそう突っ込むと同時に、私は勢いよく口に入ってきたタピオカにむせて涙目になった。

 女子の会話なんて、そんなものだ。

 (茨城県つくば市・学生・19歳)

◇ ◇ ◇ ◇

 教科書をみんなの財産として大切に扱っていた時代を振り返って、窪田重子さんの「分けっ子」。ページの片隅に“あの頃”の書き込みが残っていたら…もう、断捨離は困難。

 人間の声のように聞こえるコジュケイのさえずりに地鳴きを真似た口笛で答える、篠原文逸さん「戯れの朝のあいさつ」。この愉快なやりとり、遊ばれているのは、どっち?

 大人気のタピオカ飲料を前に、河田紗弥さんの「とある女子の会話」。言葉もつるつる転がります。こういうシチュエーションを、今どき女子は“タピる”と呼んでいるとか。

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