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【政治】

認知症数値目標取りやめ 官邸主導 拙速裏目

認知症対策を強化するため開かれた有識者会議=5月、東京・霞が関で

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 政府が認知症対策の新たな大綱の目玉とした「予防」に関する数値目標は、認知症の人や家族団体から十分に意見を聞かず「予想外」(政府関係者)の猛反発を招いた。官邸が主導し、取りまとめを急いだのが裏目に出た形だ。参院選を意識したと見る向きもある。 

 ■苦言

 「エビデンス(科学的根拠)がないのに、どうやって予防の目標を立てるのか」。五月十七日に自民党本部で開かれた会合で、前日公表した新大綱素案を説明する厚生労働省などに対し、出席議員が声を荒らげた。公明党の会合でも「発症した人が予防の努力を怠ったという誤解が生まれる」と苦言が相次いだ。

 政府は二〇一五年、認知症に関する国家戦略を策定し「共生」社会の実現に力点を置いた。初めて「予防」を打ち出したのは、官邸主導で対策を強化するため昨年十二月に開かれた関係閣僚会議の初会合だった。菅義偉(すがよしひで)官房長官が議長に就いた。

 実はこの頃から、認知症の人や家族らは「共生がないがしろになるのでは」「認知症になってはいけないというメッセージになってしまうのではないか」と感じていた。

 ■思惑

 だが政府がこうした声を丁寧に拾うことはなかった。予防を重視する背景には、膨張する社会保障費を抑制したい思惑がある。昨年十月の政府の経済財政諮問会議では、民間議員が「予防・健康づくりは健康寿命の延伸につながり、今後の介護費抑制の鍵を握っている」と主張した。認知症に関し「社会的コストが三〇年には二十一兆円を超える」との推計を取り上げた。

 これを踏まえ、政府は五月十六日の認知症に関する有識者会議で「七十代の発症を十年間で一歳遅らせる」との数値目標を盛り込んだ新大綱の素案を示した。認知症の人や支援団体は猛反発。「参院選に間に合うよう、十分話を聞かずに拙速にまとめた結果だ」と酷評する声も聞かれた。

 「福祉の党」を掲げる公明党が危機感を覚え、すかさず対応した。党認知症対策推進本部の古屋範子本部長が五月二十九日、官邸を訪れ菅氏に提言を手渡した。提言の中で「認知症の人が予防を怠っているという誤った受け止めをされることのないよう十分な配慮を」とくぎを刺した。

 ■理解

 当事者らを支援する「認知症の人と家族の会」は一日、京都市で総会を開催。全国から当事者や家族ら約二百八十人が集まり、新大綱の素案に関し「予防重視が強調され、偏見を助長する。自己責任論に結び付きかねない」との声明を確認した。

 政府は「予防」に対する理解を求めるため、新大綱へ新たに「予防とは『認知症になるのを遅らせる』『認知症になっても進行を緩やかにする』という意味だ」とわざわざ書き込んだ。厚労省関係者は「数字が独り歩きする恐れがある。数値目標にこだわりはなかった」と、強がって見せた。

 

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