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【政治】

厳しい偏見、差別の存在は厳然たる事実 ハンセン病訴訟 首相談話

 本年六月二十八日の熊本地方裁判所におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決について、私は、ハンセン病対策の歴史と、筆舌に尽くしがたい経験をされた患者・元患者の家族の皆様(みなさま)の御労苦に思いを致し、極めて異例の判断ではありますが、敢(あ)えて控訴を行わない旨の決定をいたしました。

 この問題について、私は、内閣総理大臣として、どのように責任を果たしていくべきか、どのような対応をとっていくべきか、真剣に検討を進めてまいりました。ハンセン病対策については、かつて採られた施設入所政策の下で、患者・元患者の皆様のみならず、家族の方々に対しても、社会において極めて厳しい偏見、差別が存在したことは厳然たる事実であります。この事実を深刻に受け止め、患者・元患者とその家族の方々が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として改めて深く反省し、心からお詫(わ)び申し上げます。私も、家族の皆様と直接お会いしてこの気持ちをお伝えしたいと考えています。

 今回の判決では、いくつかの重大な法律上の問題点がありますが、これまで幾多の苦痛と苦難を経験された家族の方々の御労苦をこれ以上長引かせるわけにはいきません。できる限り早期に解決を図るため、政府としては、本判決の法律上の問題点について政府の立場を明らかにする政府声明を発表し、本判決についての控訴は行わないこととしました。その上で、確定判決に基づく賠償を速やかに履行するとともに、訴訟への参加・不参加を問わず、家族を対象とした新たな補償の措置を講ずることとし、このための検討を早急に開始します。さらに、関係省庁が連携・協力し、患者・元患者やその家族がおかれていた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組みます。

 家族の皆様の声に耳を傾けながら、寄り添った支援を進め、この問題の解決に全力で取り組んでまいります。そして、家族の方々が地域で安心して暮らすことができる社会を実現してまいります。

◆政府声明の全文 

 ハンセン病家族訴訟の熊本地裁判決に反論する政府声明の全文は次の通り。

 政府は、六月二十八日の熊本地裁におけるハンセン病家族国家賠償請求訴訟判決(以下、本判決)に対しては、控訴しないという異例の判断をしましたが、この際、本判決には次のような国家賠償法、民法の解釈の根幹に関わる法律上の問題点があることを当事者である政府の立場として明らかにするものです。

 一 厚生大臣(厚生労働大臣)、法務大臣および文部大臣(文部科学大臣)の責任について

 (一)熊本地裁二〇〇一年五月十一日判決は、厚生大臣の偏見差別を除去する措置を講じる等の義務違反の違法は、一九九六年のらい予防法廃止時をもって終了すると判示しており、本判決の各大臣に偏見差別を除去する措置を講じる義務があるとした時期は、これと齟齬(そご)しているため、受け入れることができません。

 (二)偏見差別除去のためにいかなる方策を採るかについては、患者・元患者やその家族の実情に応じて柔軟に対応すべきものであることから、行政庁に政策的裁量が認められていますが、それを極端に狭く捉えており、適切な行政の執行に支障を来すことになります。また、人権啓発および教育については、公益上の見地に立って行われるものであり、個々人との関係で国家賠償法の法的義務を負うものではありません。

 二 国会議員の責任について

 国会議員の立法不作為が国家賠償法上違法となるのは、法律の規定または立法不作為が憲法上保障されまたは保護されている権利利益を合理的な理由なく制限するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などに限られます(最高裁二〇一五年十二月十六日大法廷判決等)。本判決は、前記判例に該当するとまでは言えないにもかかわらず、らい予防法の隔離規定を廃止しなかった国会議員の立法不作為を違法としております。このような判断は、前記判例に反し、司法が法令の違憲審査権を超えて国会議員の活動を過度に制約することとなり、国家賠償法の解釈として認めることができません。

 三 消滅時効について

 民法第七二四条前段は、損害賠償請求権の消滅時効の起算点を、被害者が損害および加害者を知った時としていますが、本判決では、特定の判決があった後に弁護士から指摘を受けて初めて、消滅時効の進行が開始するとしております。かかる解釈は、民法の消滅時効制度の趣旨および判例(最高裁一九八二年十月十五日第二小法廷判決等)に反するものであり、国民の権利・義務関係への影響があまりに大きく、法律論としてはこれをゆるがせにすることができません。

◆熊本地裁の判決骨子

▽ハンセン病患者の隔離政策により、家族も深刻な差別被害を受けた

▽国が一九六〇年時点で隔離政策をやめなかったのは違法。九六年までらい予防法を廃止しなかったのも違法

▽賠償請求権は時効で消滅していない

▽国は原告五百四十一人に約三億七千六百万円を支払え

 

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