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【政治】

<2020年 核廃絶の「期限」>2人の教皇に導かれ 原爆遺族暮らす施設 証言活動

ヨハネ・パウロ2世訪問時の写真を手に、当時の思い出を語る卯野ノブ子さん(右)と職員の鹿山彰さん=長崎市三ツ山町の恵の丘長崎原爆ホームで

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 「昔のパパ様(教皇)も今のパパ様も、神に仕える人は変わらない」

 二〇一九年十一月、長崎市の山あいにある「恵の丘長崎原爆ホーム」。卯野(うの)ノブ子(87)は、ローマ教皇フランシスコが爆心地公園で核廃絶を訴える様子をテレビで見ながら、三十八年前に会ったヨハネ・パウロ二世を思い浮かべた。

 一九八一年二月。粉雪が舞う中、卯野はここでヨハネ・パウロ二世を迎えた。カトリック教会の修道会が設立した施設には原爆で家族を亡くした人たちが暮らす。ヨハネ・パウロ二世は百人を超える入所者に「皆さんは絶え間なく語りかける生きた平和アピールです」と語りかけた。

 カトリック信者が多く暮らす長崎。原爆投下を「神が与えた試練」と受け止め、被爆を積極的に語りたがらない人も多かった。被爆者への差別も根強かった。

 「戦争は人間のしわざです」。広島での演説で語られた言葉は、入所者の心を解きほぐし、被爆体験を語るきっかけとなった。

 施設はこの訪問の翌年から入所者の証言集を発行。被爆で弟と妹を失った卯野も創刊号で「多くの人の心に、体に大きな傷を与え、命を奪った原爆を決して許してはいけない」とつづった。

 ヨハネ・パウロ二世と会った入所者は現在三人。入所者全体の平均年齢は八十九歳に迫り、新たに施設に入ってくる人も認知症などで話が聞けないことも多い。

 聞き取りを続けている職員の鹿山彰(53)は「証言にすることで、こういう被爆体験をした人がこの世にいたという記録は残る。一人でも話せる人がいるうちは続けなければ」。証言集は今年、三十冊目となる。

 フランシスコは被爆地での演説で、核軍拡を「途方もないテロ行為」と断じ、日本が批准していない核兵器禁止条約にも言及。世界各国の指導者に核廃絶に向けた行動を迫り、市民には「核兵器の脅威に対しては、一致団結して応じなくてはなりません」と訴えた。

 世界で十三億人の教徒がいるカトリックで、教皇に次ぐ高位聖職者である枢機卿の一人、前田万葉(70)はフランシスコのメッセージをそばで聞いた。

 長崎被爆二世の前田。教皇の訴えについて「核兵器は使うだけではなく保有すること、つくることも倫理に反すると言った。核抑止力による平和は間違っていると踏み込んでくれた」と喜ぶ。

 原爆証言の歴史に詳しい長崎大多文化社会学部の客員研究員、四條(しじょう)知恵(41)は「今回の教皇訪日を機に、原爆被害に関心を持つ人が増えてほしい」と願う。同時に、原爆被害の記録を保存する重要性を指摘。「行政は資料を残すことで、被爆者のメッセージを若者が受け止められるようにすべきだ」と話す。 (敬称略)

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