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【埼玉】

<ひと物語>木のぬくもり、ホッと 「工房西岡」代表・西岡忠司さん

エアーブラシを使い、一つ一つ丁寧に色づけしていく西岡さん=いずれも深谷市の「工房西岡」で

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 魅惑的な光沢を放つ動物たちの置物に心引かれた。深谷市の「道の駅 はなぞの」。ふと立ち寄ったみやげ物売り場に並んでいた。カワセミ、ヤマメ、メジロ−。動物たちの種類、形にも興味が湧いた。飛んでいるフクロウや、何とツチノコまであった。売り場の担当者に聞くと、地元のウッドクラフト作家、西岡忠司さん(72)の作品だという。早速、工房を訪ねた。

 「一生懸命働いたお金で買ってもらうものですからね。手に持って、ホッと安らぐようなものを目指しています」。快く時間を割いて案内してくれた西岡さんは、作品に込めた思いを話す。「特に小さな子どもたちが握って離さないようなぬくもりをね」

 こんもりと木々に囲まれた作業場や事務所、自宅などが並んだ敷地に入って、作品が紡ぎ出す魅力の一端に触れたような気がした。

 二階建ての家屋を改修した事務所には作品がずらり。カエル、ウミウシ、マンタ、カジキ、クジラ…。数え上げたらきりがない。恐竜やカッパまであった。生き物だけでなく、船や飛行機も並んでいる。作品は三百種以上。「模型屋になるのが夢だった」と言う。

 あちらこちらから集めたコレクションもいっぱい。小学校からもらい受けたという大きな丸時計で作ったテーブル、まだ動く蓄音機もあった。全長四メートルの気球の模型もあり、「いつか天井から飾りたい」と笑う。庭にはコエヨシドリとヒナイドリを飼っている。ここは遊び心の秘密基地。店に並んでいたのは、西岡さんの遊び心のうちのほんの一部だったのだ。

かわいらしいデザインと鮮やかな色が特徴の西岡さんの作品

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 もともとは魚釣りのルアーを作っていたという。なるほどと思った。釣りをしていない人でもあの不思議な色と形の魅力に引かれた人は多いのではないだろうか。「ルアーはね、魚を釣る前に人を釣る必要があるんです」。そう笑った西岡さんの細くて優しい目が特徴的だった。

 米国に出掛けたり、取り寄せたりして集めた雑誌や本の挿絵、写真などを参考に、デザインから色彩まで考える。秋田方面からハタハタの制作を依頼されるなど、西岡さんの自然愛や観察眼に基づいた作品に、博物館や水族館などから注文が相次ぐ。二年前から宮崎駿監督の長編アニメ映画「となりのトトロ」のトトロの制作も依頼されている。

 「リアルなだけじゃだめなんです。人にはイメージがある。それを壊さないようにしないといけない」

 作品は一つ一つ手作り。作品の魅力は西岡さんの人柄の魅力でもある。 (渡部穣)

<にしおか・ただし> 大阪生まれ。幼い時に両親を亡くし、児童養護施設で育つ。17歳で上京、東京・月島の酒屋で働きだし、目の前にあった古本屋で数々の本の魅力に出合う。さらに趣味の釣りでルアー作りをするようになり、実業家の白洲次郎さんや作家の開高健さんとも親交を持った。1987年に妻の実家の深谷市で「工房西岡」設立。

 

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