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【埼玉】

鳩山ニュータウンに幻の喫茶店 昭和レトロ、アート演出 菅沼さん運営

高度成長期を表現した「ニュー喫茶幻」の店内。トヨ元家さん(左から2人目)のギター伴奏でお客さんが歌い出す=いずれも鳩山町で

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 鳩山町の丘陵地帯に1970年代から開発された「鳩山ニュータウン」。ごく普通の住宅街に月10回程度、昭和時代にタイムスリップしたかのような喫茶店「ニュー喫茶幻(まぼろし)」が現れる。昭和レトロなスタンド看板をしまうと、住宅街に溶け込んで消えてしまう「幻」のような店だ。昭和の高度成長期をテーマに創作を続けるアーティスト菅沼朋香さんが運営し、高齢化が進むニュータウン再生の狙いも込められている。 (中里宏)

 「自分がなぜ、こんなに昭和を欲しているのか。考えたら、昭和の良かったところは現代にも必要なんじゃないかと思うようになった」。六〇年代風ファッションで装った菅沼さんは語る。

 大家の理解を得て、住宅の一室を改装した店の壁と天井は、六〇年代を彩ったサイケデリック模様に塗られ、曲線を生かしたカウンターやレコード、小物まで、昭和の雰囲気が漂う。

 九月から回数を増やしたモーニング営業(午前八時〜十時半)では、主に六十代の客が口コミで訪れ、七席のカウンターに座りきれないことも。昭和歌謡風のオリジナル曲を演奏するバンドで活動していたパートナーのトヨ元家さんが、ギターを抱えてカウンター内に立ち、即興で歌声喫茶にもなる。この店の空間や菅沼さんの生き方そのものが現代アートの作品という。

 この店には、もう一つの役割がある。「ニュータウンはベッドタウンから脱して自立しないと未来がない。そのために町の中で事業をする人を増やしたい」と菅沼さん。退職して家に引きこもりがちな男性たちが外に出て、町の人と知り合うきっかけをつくることも目的の一つという。

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 鳩山ニュータウンは小ぎれいな町並みが保たれているものの、住民の高齢化は進み、六十五歳以上の割合で示す高齢化率は52・25%と極めて高い。約三千二百戸のうち、空き家も百戸以上に上る。町にとって、鳩山ニュータウンの再生は北部地域の活性化とともに二大テーマの一つだ。

 町は二〇一七年、ニュータウン中心部にある空き店舗を活用し、移住促進や他世代交流などを目的にした複合施設「鳩山町コミュニティ・マルシェ」を開設。藤村龍至・東京芸術大准教授が総合プロデューサーを務める。

 藤村さんは自らも所沢市のニュータウンで育ち、ニュータウンの高齢化・過疎化問題の研究に取り組むほか、人口減少に向けた公共施設の再整備に、地域住民を取り込むプロジェクトを実践してきた気鋭の建築家だ。菅沼さんとトヨ元家さんは、藤村さんが役員を務め、同施設の指定管理者を受託する会社の社員でもある。

「ニュー喫茶幻」を運営する菅沼さん。住宅街にこつぜんと現れる店は、菅沼さんによる現代アートでもある

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 一九八六年生まれで愛知県豊田市のニュータウンで育った菅沼さんは「似たような家庭が多く、生きづらさを感じてニュータウンが嫌いだった」という。

 名古屋芸術大を卒業した二〇〇八年、名古屋市の広告代理店に入社。毎日、営業に走り回ってもリーマン・ショックの余波で仕事は取れず、精神的に追い込まれていた時、ふらりと入った古い喫茶店に安らぎを感じた。「高度成長期に開業した喫茶店の多くは、どこもゆったりとした時間が流れていた。これが高度成長期(昭和時代)に目覚めるきっかけになった」

 会社を辞め、母校に助手として戻ると、高度成長期の「幻のような時代」を表現する作品づくりを続け、東京芸術大大学院に進学。修了制作展で「ニューロマン」と題した人生の再現ドラマを映像やポスターなどで展示。予告編のポスターを「第三章移住編」とした。この展示を見た藤村さんから「鳩山町に移住して制作を続ければ」と勧められ、一七年三月、東京都内から再びニュータウンに引っ越すことになったという。

 ニュー喫茶幻では現在、「空き家スイーツ」など四つのプロジェクトの賛同者を募っている。「空き家の庭には柿や梅の木がたくさんあり、もったいない。これを利用して菓子職人にスイーツを作ってもらえれば」。菅沼さんのドラマ「ニューロマン」はまだまだ続く。十月の営業日はフェイスブックで。

 

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