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【埼玉】

<桶川ストーカー事件20年> (中)県警の悪習、浮き彫り

2000年4月、上尾署長らの処分を発表する県警の西村浩司本部長=県警本部で

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 「県警のトラウマだ」。当時を知る幹部は声を潜める。

 二十年前の桶川ストーカー殺人事件の発生前、身の危険を感じた猪野詩織さん=当時(21)=の訴えに上尾署員は誠実に耳を傾けず、告訴のもみ消しに手を染めた。「民事不介入」を建前に、業務負担を避けてきた悪習が浮き彫りとなった。

 「嫁入り前だし、裁判になると恥ずかしいことも言わないといけませんよ」。事件の三カ月前。元交際相手からのストーカー被害を相談しに同署を訪れた詩織さんと母の京子さん(69)は耳を疑った。担当課長が告訴受理を渋ったのだ。

 後日、課長は受理したが、捜査の意思はなかった。未処理事件が増えれば現場の重荷になる上、署の成績が悪くなる。上司の意向を受けた課長の指示で、係員は捜査義務が生じない被害届を取り直し、さらに詩織さんの調書の「告訴」を「届出」と改ざんした。

 「身内のトラブルは民事不介入を盾に断るのが腕の良い刑事とされた」。幹部はそう振り返る。

 懲戒免職となった当時の課長は今年九月、取材に「もう忘れた」と沈黙し、係員も「取材には応じない」と口を閉ざした。

 事件をきっかけに二〇〇〇年五月、ストーカー規制法が成立した。詩織さんが生きていれば二十二歳になる誕生日だった。県警にはストーカーの専門部署ができ、対応は様変わりした。捜査関係者は「夫婦げんかでも動くようになった」と語る一方で「仕事は増え、警察官の自己犠牲なしには成立しない」とこぼす。

 ストーカーによる凶悪事件は続いた。一一年から一三年にかけ、長崎県西海市、神奈川県逗子市、東京都三鷹市で、警察に被害を相談していた女性や家族が殺害された。一六年には東京都小金井市で音楽活動をしていた女性がファンの男に刺される殺人未遂事件も起きた。

 その都度、警察で体制が強化されたが、詩織さんの父、憲一さん(69)は「警察官が被害者の味方にならないと事件は防げない」と言い切る。

 一七年九月、憲一さんは京都府警の依頼で警察官を前に初めて講演した。不信や憎悪は消えないが、一線で働く警察官への期待を込めて引き受けた。「小さな問題も大きな懐で受け止め、被害者に希望を与えてほしい」。埼玉県警からも依頼があれば、受けるつもりだ。

<調書改ざん事件> 上尾署員が猪野詩織さんの告訴をなかったことにするため、調書を改ざんした。事件当時の署刑事2課長ら3人が懲戒免職となり、虚偽有印公文書作成罪などで有罪判決。ほかに当時の県警本部長ら9人も処分を受けた。

17年9月、警察官を前に講演する憲一さん=京都市で

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