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【埼玉】

<Newsスポット>空き家増 県内12万4000戸 背景に相続 自治体も対応に苦慮

県の「相続押しかけ講座」で講師の粟田さん(左)の話を聞く参加者=11月、寄居町で

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 人口減少に伴う空き家の増加が、全国的に問題になっている。県内も例外ではなく、売却や賃貸向けなどを除いた空き家は約十二万四千戸で、都道府県別では全国九番目の多さだ(二〇一八年住宅・土地統計調査)。倒壊の危険など周囲に迷惑を及ぼすため、行政も対策に乗り出しているが、相続による権利の複雑化が背景にあるケースが多く、解決が難しいのが実情だ。 (寺本康弘)

 住宅があるとは思えないほど草木に覆われ、隙間から見える窓ガラスは割れたまま。九月、久喜市内の住宅と田畑が混在する地域の空き家を訪れた。敷地内にはタイヤや冷蔵庫、ゴルフクラブなども放置されていた。

 「虫が大量に発生して困ります。カメムシが洗濯物にくっついて臭いがつくこともあるんです」と、嘆くのは隣家の主婦(46)。昨年は、台風で敷地内の木が倒れた。「被害はなかったが、もしうちの方に倒れていたらと思うと怖かった」。二十年前には既に空き家で、市に窮状を訴えたこともあるが、職員が様子を見に来ただけで対策はなかったという。

 久喜市で空き家問題を担当する都市整備課によると、問題の建物と土地は、元の持ち主が既に亡くなり、全ての相続人が相続を放棄したため、所有者がいない状態という。敷地面積は約千五百平方メートル。市は、相続を放棄した全員に手紙を送り、連絡が取れた一人に除草などを依頼したが「すぐには対応できない」と言われたという。

 市の担当者は「(所有者がいなくても)市が他人の土地に勝手に立ち入ることはできない」と説明する。

 相続放棄で所有者がいなくなる、相続が繰り返されて権利者が子や孫など多数になるなどすると、自治体が関係者を捜すだけでも時間がかかる。権利者を捜し出しても、本人が建物と土地の存在を知らなかったり、遠方に住んでいたりすると、解体などの対応を求めても、応じてくれない可能性が高い。

◆川口市は「管理人制度」

 難しい状況の中、積極的に対応する自治体もある。川口市は、相続放棄された土地や建物に関し、市が必要と判断すれば、家庭裁判所に相続財産管理人制度の申し立てを行う。家裁から選ばれた管理人は、相続放棄された財産を清算するための売却などができる。家裁に予納金を出す必要があるが、土地や建物の売却で管理人の報酬がまかなえれば返ってくるため、市の損失はない。

 ただ、制度の利用には事前に相続の権利者を調査し、全員が放棄していることを確認する必要があり、把握に数カ月かかることもあるという。同市は空き家対策専門の係があり、四人の職員がいるが、これだけの人員を割ける自治体は多くない。また、市の担当者は「制度を使うには対象の建物や土地が売れないと厳しい。川口は都心に近く、需要があるので恵まれている」と明かす。

◆発生の予防へ県「講座」

 一方、既にある空き家だけでなく、将来的な発生への対策も求められている。県は本年度、埼玉司法書士会や県行政書士会などと連携して取り組む「相続おしかけ講座」を始めた。

 管理されない空き家は、相続時に所有者や売却を巡って親族間で合意できず、放置されてしまった結果であることが多い。そこで、地域の高齢者が集まる場所に司法書士や行政書士を講師として派遣し、相続を考えるきっかけにしてもらうのが狙いだ。

 十一月には、寄居町の高齢者交流施設で、この講座が開かれた。行政書士の粟田聡さん(59)=日高市=が講師を務め、五十代〜八十代の二十六人が耳を傾けた。

 粟田さんは相続について「子どもたちからは、親の財産について聞きにくい。親が亡くなってから初めて調べ、話し合う。そうすると、もめるんです」と説明。トラブル回避のため、遺言作成が重要だと強調した。具体例を挟みながらの話に参加者も聞き入り、質問も相次いだ。

 県によると、講座開催の募集には今月十日までに百七件の申し込みがあり、担当者は「とても好評」と話す。

 埼玉司法書士会空き家問題等対応委員会の鈴木友治(ともはる)副委員長(44)は「行政による対策も大切だが、一人一人が当事者という認識も大事だ」と指摘。「相続を軽く考えている人が多いが、残された家族が苦労しないためにも、遺言の作成を考えてほしい」と呼び掛けている。

草木が繁茂して隠れてしまっている空き家=9月、久喜市で

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