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【埼玉】

<多様な性で彩る国へ 埼玉から伝えたいこと> (上)受容の空気 育む制度を

LGBTの特集が組まれた川越市の広報紙を手にする母親。「職員の熱意はすごく変わった」と話す=川越市内で

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 「そういった相談は受けたことがありませんので…」。二〇一七年八月、川越市男女共同参画課に電話した同市の母親(50)は、職員の対応に肩を落とした。シングルマザーで身近に頼れる人もおらず、性的少数者(LGBT)の子どものことを誰に相談すればいいのか、分からなかった。

 数日前、体調を崩し、仕事の納期が迫っていた頃。高校を卒業して浪人中だった長女から「自分は『男』なんだよ」とカミングアウトされていた。中学は一年の秋から卒業まで不登校だった。男女別の名簿に沿って名前を呼ばれ、男女別に整列するたび「自分は何者なのか」と悩んでいたと、せきを切ったように話し続けた。

 LGBTとは何なのか、図書館でありったけの本を借りた。子どもの気持ちを受け止めたつもりだったが「日帰りで性別適合手術をしたい」と切り出された時は「なんで今なの」と、とまどった。無言で部屋に戻った子どもは三カ月、出てこなくなった。

 一番の理解者でありたいのに、傷つけてしまった−。部屋にこもった子どもに食事を運ぶ日々が続き、後悔が募った。

 一七年十月、NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会東京」の集会で、同じ立場の親に会い、初めて罪悪感を打ち明けられた。「LGBTの中でも、性の悩みは人それぞれ」と知り、「息子」をもっと知ろうと思った。

 大型台風が近づいた同月末の夜、息子が「(避難所に)行くよ」と起こしにきてくれた。久しぶりに話したこの日をきっかけに、少しずつ親子の会話が戻っていった。息子は、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの中でも、人一倍強い違和感を感じていると気付いたが、親としてどこまで踏み込むべきか、今も手探りしている。

 カミングアウトから一年近くたった一八年六月、同性カップルを自治体が公認する「パートナーシップ制度」を求める請願を川越市議会が全会一致で採択。当事者らの要望もあり、市は制度導入を表明した。広報紙にはLGBTが見開きで特集され、理解を促す講座が開かれるように。男女共同参画課の職員は、戸籍上の名前を変えなくても、自分らしくいられる通称名で国民年金の書類を作成できるよう、担当課に掛け合ってくれた。

 息子は現在、東京都内の大学で通称名を名乗り、新しい人生を歩み始めた。ただ、今も祖父母ら親戚にカミングアウトする心構えはできていない。母親は訴える。「社会の空気が寛容になることで、親族も受け入れやすくなるはず。そのためにも、行政がパートナーシップ制度に取り組んでくれることは大きな希望なんです」

 ◇ 

 同性婚が認められていない日本で、自治体が同性カップルを公認するパートナーシップ制度。県内では、市民団体「レインボーさいたまの会」が各地での導入に向け奔走している。法的効力はなく、実効性は限定的。それでも、制度を求める理由とは−。当事者の家族を通して考えた。 (この連載は浅野有紀が担当します)

<LGBTカップルの法整備> 自治体がLGBTカップルの関係を公認するパートナーシップ制度は全国に広がっている。税控除などの法的効力はないが、自治体発行の証明書を示せば、婚姻関係にある異性カップルのように公営住宅の申請や病院での面会などが認められる。民間では、携帯電話の家族割サービスや保険金の受け取りなどが可能になる場合もある。同性の婚姻やパートナー関係を認める法制度がないのは、先進7カ国(G7)で日本だけ。昨年2月、婚姻の自由を侵害しているとして、各地の同性カップルが4地裁で国を提訴した。

 

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