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【埼玉】

<ひと物語>出所後の生き直し支える NPO法人ガベルサポーターズ代表・梅本和正さん

「人が失敗してもやり直せる社会をつくりたい」と話す梅本さん=さいたま市で

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 「出所後は、世間の役に立つボランティアをしてみたい」。仮出所を控えた受刑者がスピーチで自らの思いを語る。川越少年刑務所(川越市)で開かれている話し方講座。就労支援の一環として、さいたま市のNPO法人ガベルサポーターズが指導し、五年目。代表の梅本和正さん(57)=同市南区=は「語りを通し、その人の内なる力を引き出したい」と話す。

 梅本さんの本業は、失語症患者のリハビリを支える言語聴覚士。大学時代、教授から「言葉が伝わらない体験をすると患者の気持ちが分かる」と勧められ、英語が話せないまま九カ月間、米国のニューヨーク州立大へ留学した。当時、教室にアジア人は一人だけ。クラスメートの会話に入れず、孤独を味わった。

 思いがけず、周囲の注目を浴びたのは、スピーチの授業だった。つたない英語でも、武士道について話すと、皆が興味津々。「人と違うことって面白がられるんだ。スピーチっていいな」とほれ込んだ。

 帰国後、スピーチ技術の向上を目指す団体「トーストマスターズクラブ(TM)」に入会。世界中に拠点があり、会報で米国の受刑者がスピーチに取り組む記事が目に留まった。幼少期から虐待を受け、暴力でしかコミュニケーションが取れなかった受刑者が、話し方を学ぶことで変わったとのエピソードに感動し、「日本でもやりたい」と強く思った。

 社会人になって結婚し、子育ても落ちついた二〇一一年秋。自ら立ち上げた浦和TMの有志と、川越少年刑務所に話し方講座の開催を打診した。いったんはボランティアは入れないと断られたが、法務省関係者に何度も説明し、米国の刑務所でノウハウを学ぶこと三年。活動が認められ、一五年から月二回開いている。

 講座では、十人前後の受刑者が「尊敬する人」「十年後の自分」などからテーマを選んで三分間のスピーチをする。「両親から虐待にあっていた」「祖母が心の支えだった」と自身の境遇を語り出す人も。聞き役の受刑者が「勇気を出して話してくれ、ありがとう」とねぎらうと、会場は温かな空気に包まれる。

 「失敗して怒られる経験を繰り返しただろう彼らは、出所後も人に助けを求めづらい。自分の思いを伝え、受け止めてもらえる体験は、もう一人で抱え込まないと考えるきっかけになるはず」と梅本さん。

 一八年に現在のNPO法人を発足。メンバーは、保育士や教員、弁護士などさまざまで、元受刑者もいる。つまずいた人が生き直すために、社会はどうあるべきか−。受刑者と向き合うたびに考えを巡らせ、再犯のない社会復帰を願っている。 (浅野有紀)

<うめもと・かずまさ> 千葉県市川市出身。ガベルサポーターズの登録メンバーは約80人。「ガベル」はTMのシンボルで、権威の象徴である裁判官が持つ木づちを意味する。スピーチを通して誇りを取り戻してもらいたいという願いを込めた。話し方講座の効果を検証して論文にまとめるため、昨春から筑波大大学院に通う。

受刑者の前で模擬スピーチをするNPOメンバー=川越市の川越少年刑務所で

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