東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > スポーツ > 紙面から > 1月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【スポーツ】

<スポーツ平成進化論>(1)マラソン男子 頑張る数値上げる

昭和と平成の男子マラソンについて語る児玉泰介=愛知県東海市の愛知製鋼で

写真

 「平成」の幕が下り、新たな元号がスタートする新年を迎えた。この30年の平成時代、スポーツの各競技はそれぞれ進化し、アスリートを取り巻く環境も大きく様変わりした。今年のラグビーワールドカップ(W杯)、来年の東京五輪・パラリンピックと、新時代の幕開けにふさわしいビッグイベントが控える中、スポーツやアスリートにとって平成とはどんな時代だったのかを振り返り、新たな時代を展望する。

 まずは、15年以上の停滞を脱し、昨年は日本記録が2度も更新された陸上のマラソン男子。平成元年当時の日本記録保持者で、愛知製鋼陸上部監督の児玉泰介(60)と、米オレゴン州を拠点とし、2時間5分50秒という現在の日本記録を持つ大迫傑(27)。2人の言葉から平成をひもとき、今後を探る。 (森合正範)

 昨年、平成30(2018)年2月、設楽悠太(ホンダ)が16年ぶりに日本記録を更新し、10月には大迫が2時間5分台で記録を塗り替えた。平成の終わりに、日本男子マラソンが動きだした。

 さかのぼること32年。日本人初の2時間7分台を記録したのは児玉だった。昭和61(1986)年10月、北京国際で2時間7分35秒をマーク。日本記録保持者として、昭和から平成の時代をまたいだ。

 「2年後にエチオピアのデンシモが2時間6分50秒を出したけど、まだ世界記録は2時間7分台で私の記録とそう離れてはいなかった。当時、世界は日本とエチオピアの2強。普通に勝負できていた」

 現在の世界記録はエリウド・キプチョゲ(ケニア)の2時間1分39秒。世界記録はこの30年で5分11秒縮まったのに対し、日本は1分45秒しか短縮できていない。並走していたはずが、世界の背中は遠くなっていく。日本男子マラソンにとって、平成とはどのような時代だったのか。大迫が言う。

 「昭和は日本人の良さを出せた時代。それが消えたのが平成。根性、辛抱強さといった日本人らしさを忘れて、変に海外志向になった。最近の子は練習であまり走らない」

 マラソン練習は過酷だ。宗兄弟(茂、猛)は月間1200キロ以上走り、瀬古利彦は1日最高88キロ。円谷幸吉、君原健二、宗兄弟、瀬古は限界まで走り込んで強くなった。それが日本の伝統だった。

 ケニア勢が本格的にマラソンに取り組み、レースは高速化。科学トレーニングなど練習方法が多様化すると、考え方も変わってきた。大迫は日本のトップ選手と練習して感じることがあるという。

 「ケニア人はアキレス腱(けん)が細い、脚が長いからすごいとか先入観があって、自分たちはだめだと思い込んでいる。日本人はやらない理由、できない理由を探している。当たり前だけど、マラソンはハードな練習をして頑張る数値を上げないと成長しない。僕はそこに気づけた」

 指導者として、今もマラソンに携わる児玉も分析する。

 「僕らのころはインターネットがなかった。宗さんが月間1200キロ走ったとうわさが流れれば、瀬古さんが1500キロ走った時代。今は情報過多。練習法で『あれがいい、これがいい』といろんなことに手を出す。新しいものは必要だが、基本的な走り込みをなくしたら記録は出ない」

 平成を語る2人の言葉が重なり合う。27歳の大迫が「根性」という言葉を使って「日本人の良さを忘れた」と話せば、児玉は「情報過多に埋もれた」と振り返る。幹を忘れ、枝葉に必死になっていた。

 では、今後、日本男子はどうなるのか。海外を拠点にする大迫には持論がある。

 「僕は外国人と比べて、日本人の方が根性の絶対値や限界値は高いと思う。だからマラソンに向いている。海外のコーチに『瀬古さんは月1500キロ以上走った』と言っても信じない。その練習量で選手生命は短くなるかもしれないけど、輝くことはできる。日本人のメンタルは武器」

 児玉は大迫のさらなる記録の更新に期待を寄せる。

 「今は日本人の良いところ、情報の選び方に気づいた選手が強くなっている。昔より練習に集中できる環境だったり、科学的な要素もある。大迫君、その下の世代で2時間3分台までいってほしい」

 大迫の目には世界の背中がうっすらと見えてきた。新時代の幕開けとともに、その後ろ姿は少しずつ大きくなっていくのだろうか。

 「東京五輪がモチベーションになっている。世界との差が縮まるかは僕らの努力次第。時間はかかるかもしれないけど、僕が気づいたことを意識してやっていけば、もっと日本人だって強くなる」 (敬称略)

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報