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【スポーツ】

<スポーツ平成進化論>(6)大相撲 学生出身力士の時代に

昨年の名古屋場所で、たたき上げの大関高安(左)を攻める学生出身の御嶽海。新たな時代に、ともに横綱へと上り詰められるか=いずれもドルフィンズアリーナで

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 昭和天皇が崩御した直後に迎えた平成最初の初場所から30年。平成時代の本場所も、間もなく初日を迎える初場所と、3月の春場所の2場所のみとなった。平成の後半の土俵で一時代を築いた横綱白鵬が残りの場所を自ら締めると意気込めば、久しぶりの日本生まれの横綱となった稀勢の里は復活を期してもがいている。そして、虎視眈々(たんたん)と賜杯獲得をうかがうのが、御嶽海や豊山ら大学で実績を残して番付を駆け上がった力士らだ。平成時代に一大勢力となった学生相撲出身の強者たちが、新たな時代の土俵の主役となるのか。 (海老名徳馬)

 変わりゆく角界の姿を象徴する場面だった。昨年7月、平成最後の名古屋場所は当時関脇の御嶽海が優勝し、殊勲賞と技能賞も獲得。敢闘賞は豊山と朝乃山。そろって学生相撲出身の3人が優勝争いを盛り上げて三賞を占め、千秋楽後の支度部屋でトロフィーを手に喜んだ。「これからは学生相撲出身が盛り上げていく時代」。御嶽海の自信に満ちた言葉が、新しい時代を予感させた。

 平成の間に、土俵の勢力図ががらっと変わった。分かりやすい部分で言えば外国出身力士の台頭。平成元(1989)年初場所では38人の幕内のうち大関小錦だけだったが、今年の初場所は42人中、2横綱ら9人を占める(番付編成後に引退の貴ノ岩も含む)。

 ただ外国勢を除いた力士を最終学歴で分ければ、人数が大きく増えているのは「学生相撲」とも呼ばれる大学での相撲で相撲を磨いた力士だ。平成元年初場所の4人から、今年初場所では14人に。平成の間に一気に増えた学生出身力士は、現在の幕内での“最大派閥”となっている。

 なぜ増えたのか。豪風や嘉風ら、多くの学生出身力士を育ててきた尾車親方(元大関琴風)は理由の一つを「学生とプロの差がなくなってきたから」と説明する。

 日大で学生横綱となり、角界に飛び込んだ元関脇出羽の花の出来山親方は、昭和49(1974)年に幕下最下位格付け出しでデビューした場所で負け越した。「兄弟子たちに比べスタミナがなかった。稽古についていくのにまず苦労した」と振り返る。

 中卒のたたき上げ力士が多く、猛稽古に耐えた者が力をつけた時代。申し合い稽古では競い合いながら30番以上相撲を取るのが当たり前で、番数は学生時代の倍ほどに増えたという。学生相撲の頂点に立った身にも大相撲の壁は高く、出世するためにはさらに力をつける必要があった。

 今は、多くの親方が「昔よりも稽古量が減っている」と嘆く。故障を恐れず、時にけがをしても稽古を重ねた時代から、体を守りながら土俵に上がる時代に。尾車親方は「中卒の身からしたら、なめられていると思うこともあるけれど、学生にすれば入りやすいと思う」と推し量る。

 角界の風潮も変わってきている。尾車親方は現役時代、大学から入門した力士に負けると「アルバイトみたいなやつに負けやがってと親方に怒られた」と明かす。たたき上げの力士の、学生出身には負けられないという意識。長い間存在していたその雰囲気も今は昔だという。

 「性根を入れて、なんとしても関取になってやろう、という子どもは少なくなった」と尾車親方。いわばエリートと言える学生出身力士への対抗意識が薄くなり「学生とたたき上げという垣根はもう全然ない。だから学生も、やってみようという気持ちになるんでしょう」。

 たたき上げから外国出身力士、さらに学生出身力士と変わってきた角界の流れが、これからはどうなっていくのか。東洋大から幕下10枚目格付け出しでデビューした御嶽海は「(幕内は)学生が8割、残り2割は経験者の高校出身という時代になってもおかしくない」と大胆に予測する。

 御嶽海は高校や大学で、長い指導経験のある監督、コーチの教えを受けた。「全てが力になった。教えてもらったことが、その時その時の自分にちょうど合っていた」

 一方で最近の大相撲の世界では、進学せずに10代で入門しても、集団生活の独特なしきたりになじめず辞めてしまう力士が多い。尾車親方は「強くさせる前に、まずどうやって続けさせるか。これからは相当考えないといけない」と頭を悩ませる。

 角界が育て方を模索しているのに対し、大学まで相撲を続ければ、これまでのノウハウに沿って力を伸ばすことができる。御嶽海は「そういう経験者でなければ、簡単には幕内に上がってこられなくなるかもしれない」と話す。

 尾車親方は「厳しさは必要だけれど、相撲界で凝り固まらず、学生スポーツのいろいろな競技の指導を見学するのもいい。特に若い親方が、今の子どもたちの心をつかむ新しい育て方をどう見つけるか」と期待をかける。 =おわり

昨年の名古屋場所で三賞をそろって受賞した学生出身の(左から)豊山、御嶽海、朝乃山

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◆横綱、過去に輪島だけ

 学生出身力士が台頭する一方で、過去に学生出身で横綱まで上り詰めたのは昭和時代の輪島だけ。最近では大関も、平成19(2007)年名古屋場所後に昇進した琴光喜以来、誕生していない。

 尾車親方は学生出身力士の実力は認めつつ、「最後の頂点になると、まだね。学生さんの方が、ある意味、サラリーマン化しているのかもしれない」と分析する。三役や大関まで昇進し、安定した力士生活が送れるようになると、「なにがなんでも横綱に」という意識が薄れるのかもしれない。

 中学や高校を卒業後に入門した力士は、長い下積みを経験している。それだけに「あれだけきつい思いをしたんだから、こんなところで満足してたまるか、という燃料をタンクにためているかも」(尾車親方)。学生出身で2人目の横綱が誕生するか。平成の次に迎える新たな時代の土俵の焦点の一つとなるだろう。

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