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【スポーツ】

<希望を開く 東京復興五輪2020>(下)走りで心動かしたい 陸上短距離・山田美来

岩手出身の山田美来(左)と大村邦英総監督。東京五輪の活躍が復興の一翼を担う=横浜市の日体大建志台キャンパスで

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 昨年の夏、日体大陸上部の大村邦英総監督から声を掛けられた。「私の故郷の宮古市で陸上教室をやるから。岩手だぞ。一緒に行こう」。岩手県二戸市出身の山田美来(日体大)は「はい」と元気よくうなずいた。地元でのボランティア。喜びで胸が躍った。

 会場となる宮古運動公園陸上競技場までの道のり。近づくにつれ、山田の心は沈んでいった。「海の近くは更地が多くて、活気がないというか…。津波の跡も残っている。宮古はすごくいい所なのに、なんだか寂しい気持ちになった」。東日本大震災から8年。これが現実だった。

 陸上教室では小学生から高校生まで約200人の先生役。率先して声を掛け、体を動かす。走り方を実演し、一緒に汗を流した。しかし、生徒たちに覇気がない。「岩手の人はシャイ。やっていくうちに楽しそうになりましたけど、やっぱりこういう感じなんだなと思った」。山田の心はどこか晴れなかった。

 小学6年生のときに被災。授業中、先生が「机の下に隠れなさい!」と叫び、恐怖に震えながら大きな揺れが終わるのを待った。「二戸市は内陸なので、停電や食料がなかったくらい。沿岸部に住む人の話を聞くと、津波などで本当につらい思いをしている。そういう経験をしているから、殻にこもったり、一歩踏み出せない子もいる」

 大村総監督が故郷の宮古市で陸上教室は始めたのは2011年1月から。毎年足を運び、昨夏が9回目。震災後の12年1月には当時東京高で指導していたケンブリッジ飛鳥(ナイキ=16年リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレー銀メダル)らを連れて行った。「少しでも復興の力になれればいい。だけど、来るたびにともしびが消えていると感じる」と漏らす。

 山田は昨年の日本選手権女子200メートルで3位。女子400メートルリレーの日本代表候補に選ばれ、東京が視界に入ってきた。「私だけの意見かもしれないけど」と前置きして、言葉に力を込めた。

 「『復興五輪』と呼ばれることによって、私はすごく頑張れる。私の走りを見てもらって、あのシャイな岩手の人、殻にこもっている人の心を動かしたい。自分も何かやってみよう、ときっかけになればうれしい。それが復興につながる。だから私は頑張る」

 東京五輪は盛り上がり、世界から東北が注目されるだろう。だが、大村監督には懸念があるという。

 「『一時的に盛り上がりました、復興五輪が終わったら、また寂しい世界に戻ります』では困る。五輪が終わりではない。継続していくことが大事。私はずっと陸上教室を続けていく」

 復興の希望を開く東京五輪へ。山田と大村総監督、それぞれの立場で故郷を思う。 (森合正範)

<やまだ・みく> 中学はバスケットボール部。岩手・盛岡誠桜高から本格的に陸上を始める。2018年日本選手権女子200メートル3位。女子400メートルリレーの日本代表候補。100メートルの自己記録は11秒81、200メートルは23秒91。日体大。19歳。岩手県二戸市出身。

震災後の2012年1月に行われた陸上教室で実演する当時東京高のケンブリッジ飛鳥(左)。右奥は大村総監督=岩手県宮古市の宮古高で

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