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【スポーツ】

<スポーツ+サイエンス>進化するデータ分析 ブーイングよりも合理性

日本−ポーランド後半、自陣でボールを回して時間を使う長谷部選手(中)。左は足を止め試合を見つめる柴崎選手=2018年6月、ボルゴグラードで

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◆昨年W杯の日本代表 時間稼ぎで決勝T進出

 スポーツをデータで「見る」のが当たり前になってきた。選手の評価や戦術の分析に役立つ。数字や統計を駆使した情報戦が、勝負の分かれ目になるかもしれない。 (三輪喜人)

 スタジアムの大ブーイングが、サッカー日本代表に浴びせられた。二〇一八年六月、W杯一次リーグのポーランド戦。試合終盤、選手たちは攻撃をやめ、パス回しで時間稼ぎを始めたからだ。

 決勝トーナメント進出をかけた最終戦。1−0で日本が追う展開で、消極的な戦法は物議を醸した。

◆状況

 「批判はあっても、統計的には決勝T進出の確率を上げる合理的な判断でした」。順天堂大の広津信義教授(統計学)は説明する。どの戦術がよかったのか。

 当時の状況を振り返ると、日本はポーランドに対し引き分け以上なら自力で一次リーグを突破できた。だが、同点を狙って攻撃をしかけ、逆に点を取られると、得失点差の関係で突破は厳しくなる。

 パス回しを続けて1−0のままポーランドに負けると、予選突破は、同時に進行していたコロンビア対セネガルの結果次第となる。このとき、コロンビアが1−0でリードしていた。このままコロンビアが勝てば日本は決勝T進出、追いつかれて引き分けか負けなら予選敗退だ。

 日本は自力での突破ではなく他力に頼った。結果は、両試合とも、そのまま試合が終わり日本は決勝Tに進んだ。

◆確率

 広津さんは、パス回しを始めた時点で、日本が決勝Tに進出する確率を分析した。

 勝負の駆け引きを扱う「ゲーム理論」や統計など、数学的手法を使用。「パス回しで時間稼ぎ」した場合と「攻撃を続ける」場合に分けて、残り時間での得点の確率を計算した。

 日本代表が、攻撃を選んだときの決勝T進出の確率は80%。ところがパス回しを選ぶと、88%と8ポイント上昇した。

 サッカーで得点が入る確率の計算法は、地震などの発生確率を計算する方法と同じという。「今回は試合後に計算したが、事前のシミュレーションも可能だろう」と広津さん。勝率の高い作戦をあらかじめ考えることも可能だ。

 スポーツで統計が注目され始めたのは、カメラやセンサーの進化で、たくさんのデータが集められるようになってきたからだ。W杯ロシア大会ではデータ活用が本格化した。大会側はタブレット端末を各チームに配り、カメラやセンサーで集めたボールや選手の位置などのデータをリアルタイムに届けた。

◆拡大

 データ利用は、野球やアメリカンフットボール、バスケットボール、テニスなどでも進む。野球は一プレーごとに区切られるため、統計で調べやすい。メジャーリーグでは、セイバーメトリクスという手法が普及している。

 低迷球団がこの手法を選手評価に取り入れて強豪の仲間入りを果たした実話は、映画「マネーボール」にもなった。また統計から二番打者に主砲を置くのが有利との説もあり、採用する球団もある。

 カメラで野手の一挙手一投足を把握することで、評価しにくかった守備も、打球への反応の速さなどで測ることができるようになった。

 選手の成長の予測も試みられている。米大リーグでは、ピークを過ぎたとみられる選手を成績が下がる前に放出することもあるという。

 ただ、監督の貢献度や捕手のリードのうまさなど数値で測れない部分もある。集まったデータの山から、使える情報を見つけ出す方法が求められている。

◆データが選手のけがも予測

 データは、アスリートの選手生命を延ばすかもしれない。 

 中央大の酒折(さかおり)文武准教授(統計科学)は、野球で投手の投球フォームとけがの関係を調べた。酒折さんによれば、日本球界では、投球数よりも登板間隔が、けがにつながると考えられていた。

 登板数や球種、ボールの回転数などデータで分析すると、投球のとき球を離す位置が体から離れていることや、1試合の投球数が多いことが、けがのリスクを高めることがわかった。酒折さんは「けがの予防に役立つ。データはプレーを変える力がある」と話す。

 

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