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【スポーツ】

<相棒の進化論 東京2020支える道具> (中)短距離シューズ

桐生祥秀が9秒98をマークしたときのシューズ(左)の裏にはピンが6本ある。次世代シューズ(右)にピンはなく、カーボンファイバー素材をベースとした複雑な立体構造を靴底に取り入れている

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 シューズの裏に、あるはずの「スパイクピン」がない。スポーツメーカーのアシックスが革新的な陸上短距離用シューズを開発した。靴底にはスパイクピンの代わりに、カーボンファイバー素材をベースにした複雑な形状の突起物が無数にある。男子100メートルで日本歴代2位の9秒98を持つ桐生祥秀(日本生命)らが愛用するなど、次世代シューズは陸上界に革命を起こすかもしれない。 (森合正範)

ピンなしシューズで世界選手権の男子100メートル予選を走る桐生祥秀(中)=9月、ドーハで(榎戸直紀撮影)

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 2015年夏。アシックスが選手や学生からシューズのヒアリングを行った時だった。「スパイクのピンが地面に刺さって抜けない感覚がある」「このピンの長さだと地面からの抜けがいい」。当然のこととはいえ、多くの選手がピンにこだわっている。開発担当者は話を聞き、ふと考えが浮かんだ。「もし、ピンがなければ、タイムのロスはなくなり、もっと速く走れるのではないか」。常識が覆る瞬間だった。

 アシックスは1964年の東京五輪からピンのある従来のスパイクを提供。ピンで地面を捉えて推進力を生み出し、スピードへつなげてきた。競技規則により、ピンは9ミリ以下、11本までと決まっている。メーカーは靴底のどこに何ミリのものを何本配置するか試行錯誤を重ねてきた。

1964年東京五輪の男子400メートルリレー代表、浅井浄さんのシューズ。靴底には金属の長いピンが4本ある

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 スパイクピンは地面を「点」で捉える。だが、カーボン素材をベースとした突起物は接地する部分が多く「線」で捉え、効率よく推進力を得られる。着地がスムーズで地面に刺さる感覚もない。しかも、金属のピンを搭載せず、軽さが追求できる。11本の制約がないため、靴底の設計に自由度が増した。

 開発チームの小塚祐也さんは「理想の形はあったが、そもそも本当にできるのか。今までにない新しい物を作るという難しさがあった。実際、カーボン素材でぼこぼこの突起物を作る技術は高い精度が求められた」と苦労を語る。

 約3年かけ、18年5月に「次世代短距離シューズ」が完成。興味を示したのが桐生だった。ピンのないシューズを見た時には「これで本当に走れるんですか。滑るんじゃないですか?」と問い掛けてきた。しかし、実際に走ってみると「地面からの反発を感じやすい」と好感触。「足裏全体で地面を捉えたい」という桐生の走り方に合致した。

 桐生には右足が外側に流れる癖があり、アシックスが計測してきたデータと照らし合わせ、桐生用に改良を重ねた。小塚さんは「桐生選手と意見交換して、30〜40足はバージョンアップしてきた」と話す。19年8月に初めてレースで履き、世界選手権(ドーハ)でも好走した。

 男子100メートルのトップ選手の最高速度は時速40キロを超える。100分の1秒を争う選手にとって、シューズは唯一の武器。小塚さんは言う。「今は『次世代シューズ』と呼ばれているが、ピンのスパイクが常識だったように、もしかしたら今後はこれが当たり前になるかもしれない」。1964年に従来のピンがあるスパイクが誕生した。今度は2020年東京五輪を機に、短距離シューズの概念が変わろうとしている。

◆マラソンは厚底で好記録

ナイキの厚底シューズ「ズームXヴェイパーフライネクスト%」

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 マラソンでは米スポーツ用品大手ナイキの厚底シューズが席巻している。今年9月にあった東京五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)では、男子上位3選手の中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)、大迫傑(ナイキ)がクッション性と軽さを兼ね備える「ズームXヴェイパーフライネクスト%」を履いていた。

 前日本記録保持者の設楽悠太(ホンダ)もナイキの厚底シューズを愛用。10月には男子世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)が試作の厚底シューズで走り、非公認ながら1時間59分40秒をマークした。

 

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