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【スポーツ】

<東京パラリンピック2020 マイ・ウェイ!>絶たれても次の夢がある 競泳・富田宇宙(30)

コースロープすれすれを泳ぐ富田宇宙=横浜国際プールで

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 パラ競泳男子の富田宇宙は30歳の新鋭だ。目の病気が進んで2年半前、弱視から全盲のクラスに変わった。初挑戦だった昨年の世界選手権は、400メートル自由形でアジア新記録の4分32秒90をマークし、銀メダルを獲得。中途障害で夢を絶たれ、できないことが増える日々と向き合いながら「自分や周りの障害に対する考え方をブレークスルーしたい」と、東京パラリンピックの金メダルを狙う。

 全盲選手は、コースロープに時折触れて方向を探り、真っすぐ泳ごうとする。腕のどこで触れるか。どのタイミングにするか。検討を重ね、フォームを修正していく。目が見えていたころから競泳をしていた富田は、効率の良い泳ぎは身についているものの「ロープをたどるには、ある程度手を横に出さないといけない。でも、しっかりと水をかくだけならもっと良い軌道がある。この健常者と視覚障害者の泳ぎのバランスが難しい」と試行錯誤する。

 コース内の位置取りにも工夫を凝らす。得意の自由形は着水後、右側のコースロープに沿うように進む。ターンすると、今度は左腕で同じロープを触り、すれすれを泳ぐ。つまり、コース幅の半分のみを使って往復する。

 多くの全盲選手は、常に体の右側のロープに沿って泳ぐ。この場合、ターンするたびに反対側のロープへと斜めに泳ぐため、遠回りになる。富田の泳ぎなら、その分のタイムロスを減らせる。

 ひじの曲げ方やキックの角度、ターンの位置などの細かい調整も大会に出るたびに試す。「速く泳げる人ならみんな知っていることを、僕はまだできない。下手くそだと思う」と苦笑するが「伸びしろはいくらでもある」と前向きに捉える。

 親が名付けてくれた「宇宙」に興味を持ち、幼少期から宇宙飛行士を志した。3歳で始めた水泳は、そのための体力づくりの手段。勉強もそうだ。「好きというより、将来のために一生懸命やんなきゃみたいな感覚が強かった」

 その夢は突然、絶たれた。高校2年で黒板の文字が見えにくくなり、病院4カ所を回った末、網膜の異常で視野が狭まる進行性の難病「網膜色素変性症」と判明。「人生が終わった」。絶望した。

 高校卒業と同時に競技から離れていたが、社会人になった2012年、「障害者のコミュニティーに入ろう」と5年ぶりに再開した。翌年、東京パラリンピック開催が決定。「途中でこういう(障害者という)立場になった人が努力する姿を発信できれば」と出場を目指した。

 症状は進み、できないことも増え、そのたびに絶望的な気持ちになる。生きるのが嫌になるときもある。競技に打ち込む姿勢だけでなく、普段から感じている生きづらさも、泳ぐ姿を通じて伝えたい。

 パラリンピックでメダルを狙える位置に登り詰め「自己満足じゃ終われない」と責任感をまとう。まずは3月の記録会で代表内定を勝ち取りたい。「東京で笑顔でスタート台に立てる準備を一日一日するだけ」。がむしゃらに道を切り開いていく。 (兼村優希)

<とみた・うちゅう> 1989年2月28日、熊本市生まれ。2019年9月、ロンドン世界選手権視覚障害S11(全盲)クラスの男子400メートル自由形と100メートルバタフライで銀メダル。所属の日体大大学院では博士課程でコーチング学を専攻。競技ダンスの全国大会で優勝経験もある。

東京パラリンピックで金メダル獲得を目指す

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