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【栃木】

<移住者新時代>栃木発 1日1組限定のおもてなし

五十里湖畔で「看板犬」と遊ぶ三上政志さん(右)と新田玲子さん=いずれも日光市で

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◆日光で民宿 三上政志さん(63)、新田玲子さん(61)

 福島県境に近い山あいの日光市五十里(いかり)地区。ダム建設でできた五十里湖の湖畔に木造平屋の民宿「古民家食堂六代目へいじ」が立つ。三上政志さん(63)とパートナーの新田玲子さん(61)が営む一日一組限定の貸し切り宿。心尽くしのもてなしが評判を呼び、四年目に入った今、予約は一年先までいっぱいという。

 ともに青森県弘前市出身。三上さんは大手旅行会社の営業職として主に東北で働き、五十歳を機に、宿泊業のコンサルタントとして仙台市で独立した。このころ、青森県内の銀行で働いていた新田さんと出会い、人生を共にするようになった。

 二〇一一年、東日本大震災が起きた。三上さんの自宅兼事務所が入っていたマンションは半壊。影響は景気にも及び、仕事は激減した。これが転機になった。

 「助言するだけで何の責任もなく、前の会社の肩書と人脈でやってきた。このままでいいのか。生き方を再構築しよう」

 五十里湖畔で、仕事仲間の実家の空き家を借り、一二年、仲間の名を冠した食事処「六代目へいじ」を開店した。

2人が営む民宿「古民家食堂六代目へいじ」

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 ところが、経営はすぐに行き詰まった。客足は遠のき、仕入れた大量の食材は廃棄処分に。かつて顧客にあれこれアドバイスしていた自分の無力を恥じた。

 学んだこともあった。五十里を訪れる人は、安らぎの時間を求めていると気付いた。そこで、一日一組の民宿として一六年三月、再出発。家族連れのリピーターが増え、帰り際に次の予約が入った。

 夕食には、三上さんが腕によりをかけた東北の郷土料理が並ぶ。津軽を代表する「ホタテ貝焼きみそ」、キュウリやナスを細かく刻んでしょうゆで味付けした山形の「だし」。栃木県で品種改良されたニジマス「ヤシオマス」など地元食材も使う。東北の食材は会社勤めのころの知人を通じて集める。野菜など他の食材は、新田さんが塩谷町まで車で往復三時間かけて買い出しに出る。

 夕食だけでなく、二人が飼う二匹の「看板犬」、柴犬の雄「ダム」と雌の「いかり娘(こ)」が同行する早朝の湖畔散策も人気だ。

 多くの観光客が訪れる日光市でも、人口減に悩んでいるのは、多くの地方都市と変わらない。二人が暮らすのは五世帯十一人の限界集落。二人はここに根を下ろし、ゆったりと時を過ごしていくつもりでいる。

 五十里地区に遅い春が訪れ、周囲の山肌が木々の葉のもえぎ色で染まる。そして、マンサク、ツツジ、フジ、ヤマアジサイと花の季節を迎える。「ここが最も輝くのはこれからですよ」。二人は笑顔を見せた。

 ◇ 

 平成が終わり、令和の時代が幕を開けた。「人生百年」とうたわれる昨今、新たな生き方を模索する人たちが増えている。お金では買えない自由や生きがいを求めて、栃木、群馬、埼玉、茨城の関東四県に移住した人生のベテランたちの「新時代」を紹介する。 (随時掲載します)

◆取材後記

 民宿の前の会津西街道は江戸時代、五十里宿として栄えた。今は「超」が付くほどの限界集落で、最も若いのが新田さん。二人は「そう遠くない将来、集落は消滅する」と考え、昔の写真を集めている。ここで人が暮らした歴史を残そうとしている姿は、印象的だった。 (原田拓哉)

 

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