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【国際】

20世紀の冒険色あせず 「タンタン」生誕90年

パリの文化センターに展示されたタンタンが描かれた絵=2006年12月、AP・共同

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 少年記者タンタンと愛犬スノーウィ(仏語版はミルー)の活躍を描いたベルギーの漫画「タンタンの冒険」が、誕生から90年を迎えた。植民地が珍しくなかった出版当時の社会を忠実に描いた作品は「差別的」との批判も受けたが、世界を股に掛ける1人と1匹の冒険は、今も多くの読者をひきつけている。 (パリ・竹田佳彦)

 ▼モデルは弟

 タンタンシリーズはベルギーの漫画家エルジェ(一九〇七〜八三)の作品で、未完の一冊を含む二十四冊が出版された。百二十の言語に翻訳され、売り上げは累計二億五千万部以上。米映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏やジョージ・ルーカス氏、日本の漫画家の故やなせたかし氏ら著名人のファンも多い。

 タンタンが生まれたのは一九二九年一月十日。カトリック系新聞「二十世紀新聞」の子供向け付録だ。前髪がくるりとはねた風貌は、エルジェの弟ポールをモデルとした。

 作中でさまざまな騒動に巻き込まれたタンタンは、友だちを助けるため敵の本拠地に乗り込んだり、海に飛び込んだり。無償の愛や友情、勇敢さを備えた姿は、エルジェが少年時代に傾倒し、カトリックと関わりが深いボーイスカウトの影響があるとされる。

 ▼世界を舞台に

 物語は旧ソビエトに始まり、米国や独立運動に揺れるチベットなど世界各地を舞台にした。実在する建物や遺跡、人々の風習を参考にした下書きが今も残る。

 世界初の月旅行計画にタンタンが参加する「月世界探検」(五四年)では、引力が弱い月の様子も盛り込んだ。米国の宇宙飛行士が実際に着陸する十五年も前のことだ。仏メディアは作品に「二十世紀の歴史が詰まっている」と評する。

 登場人物も個性豊かだ。大酒飲みでしょっちゅう悪態をつくハドック船長や、変わり者の天才科学者ビーカー教授、赤の他人ながらそっくりでドジなデュポンとデュボン両刑事。職業への偏見との声もあるが、エルジェはインタビューで「個性を誇張して描いた風刺なんだ」と説明した。

 ▼出版停止求め提訴

 時代の空気をそのまま反映した作品は、古くから論争も呼んだ。「タンタンのコンゴ探検」(三一年)は当時ベルギー領だったコンゴが舞台。黒人は怠け者で、迷信深い存在に描かれた。「人種差別的」との批判を受け、四六年の改訂で一部差し替えられたが、二〇一〇年にはベルギー在住のコンゴ人男性が出版停止を求めて訴訟を起こした。

 エルジェ自身は、インタビューで差別意識を否定し「当時の社会の一般的なイメージでしかコンゴを知らなかった」と釈明した。一二年に確定した判決は「人種的憎悪をあおる意図の証拠はない」との判断を示したが、批判はくすぶる。

 「不思議な流れ星」(四二年)では、かぎ鼻でひげを伸ばしたユダヤ人の描き方などに、反ユダヤ主義だと批判が上がった。仏ラジオによると全作品の登場人物三百五十人超のうち女性は十人未満。感情的で気まぐれな存在で、女性差別的との声もある。

 タンタンの影響でジャーナリストになり、仏文学賞「ゴンクール賞」の選考委員も務める作家ピエール・アスリンさん(65)は、批判を受けた各点が「作者の生まれ育った時代で一般的だった考え方を反映したものだ。随時修正されている」と擁護する。

 ベルギー生まれの漫画ながら、タンタン自身の信仰や人種、国籍は前面には出てこない。アスリンさんは「エルジェが天才的だったのは、少年記者というだけで、普遍化したこと」と分析。「正義漢で、世界を駆け回るけれど、原稿は書かない。読めば幸せな少年時代にいつでも戻れる。だからこそ、国や世代を超えて親しまれるのだろう」

<タンタンの由来> 作品が誕生した当時、ベルギーでは男の子に「マルタン」「オギュスタン」など、「in(アン)」で終わる名前が人気だった。前作の主人公「トトル」の名前と交ぜて、タンタン(Tintin)と名付けたという。

 

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