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【国際】

米「拘束IS戦闘員を出身国に」 欧州、テロ不安強く反発

同時多発テロがあったレストラン前に集まり、ろうそくに火をともす市民ら=2015年11月14日、パリで(ゲッティ・共同)

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 シリアに駐留する米軍部隊約二千人の早期撤収に向け、トランプ米大統領は、現地で拘束されている過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員らを出身国へ連れ戻すよう圧力を強めている。だが、欧州各国は対応に頭を悩ませる。本国で受け入れれば、収監先から過激思想が広がりかねない。ISの関与が疑われるテロで多くの犠牲者を出した国民には反発が強い。 (ワシントン・後藤孝好、パリ・竹田佳彦)

 トランプ氏はミュンヘン安全保障会議が開かれていた先月中旬、ツイッターに「米国は英国やフランス、ドイツ、その他の同盟国に対し、シリアで拘束した八百人以上のIS戦闘員を引き取って裁判にかけるよう求めている」と投稿。身柄を引き取らない場合には、戦闘員の釈放をちらつかせて欧州各国をけん制した。

 IS掃討作戦で米軍と連携するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が拘束したIS戦闘員らの出身地は四十カ国以上とされ、その処遇は大きな懸案だ。この問題を解決できなければ、昨年十二月に方針を示した米軍撤収を速やかに進められず、トランプ氏は現状に不満を募らせているとみられる。

 一方で、トランプ政権はISに加わった米国出身女性の帰国は認めない方針だ。IS戦闘員の妻となった米国生まれのホダ・ムサナさん(24)の帰国を拒否。ムサナさんの父親はイエメン出身のイエメン外交官だったため、米国で生まれた子供に米国籍を与える「出生地主義」が適用されず、「米国市民ではない」として受け入れを拒んだとみられる。米国第一主義に基づく二重基準との批判も上がりそうだ。

2月6日、ワシントンの米国務省で開かれた、ISに関する会議で演説するトランプ大統領=UPI・共同

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 IS戦闘員の受け入れを求められた欧州各国では、テロ事件に対する国民の不安や懸念が強い。フランスでは約百三十人の仏国籍戦闘員らがシリアで拘束されているとみられるが、政府は受け入れを含む処遇について明確な方針を打ち出せないでいる。

 カスタネール仏内相は一月末、報道番組で「米軍が撤収すれば収監者は釈放され、フランスへ帰国を望むだろう。私は全員を(本国の)司法に委ねる」と発言。それまで政府は現地で裁判の上、収監すべきだとしていたが、米軍撤収後、管理が手薄になった拘束施設からの逃亡を防ぐなどのため方針転換を示唆した。

 この発言に、国民は激しく反発。国内のテロ犠牲者や市民でつくる団体は「刑務所は満杯で、どこに受け入れるのか。収容施設内でイスラム過激主義が広まる可能性もある」と批判。野党議員も「祖国を裏切り、われわれの文明に弓を引いた者に、もはや居場所はない」と主張した。

 受け入れ議論が進まない中、今月五日には北西部の刑務所でイスラム過激派の影響を受けた収監者が刃物で刑務官二人を襲い、立てこもる事件も発生。二人が重軽傷を負ったことで、各地の刑務官が再発を懸念し、安全対策を求めるデモを実施した。

 パリ郊外にある欧州最大規模のフルリー・メロジス刑務所に勤める刑務官(55)は「どこも定員オーバーで、シリアから戦闘員らを引き取った場合、他の収監者と隔離する余裕はない。絶対に過激化につながる」と断言する。

 フランスでは二〇一五年十一月のパリ同時多発テロ以降、ISの関与が疑われるテロが相次ぎ、二百人以上が犠牲になった。テロ実行犯の一部は別の事件で服役中に過激化したとされる。仏紙フィガロが一月末に実施したアンケートでは、回答者九万三千人の91%が、IS戦闘員らは「現地で裁かれるべきだ」としており、今後反発が一層強まるとみられる。

 他の欧州各国も難しい対応を迫られている。

 英国ではシリアに渡ってIS戦闘員と結婚した女性について、内相が「公共の利益にかなう」と判断して英国籍剥奪を決定、受け入れには否定的だ。

 ドイツ政府はISなど国外のテロ組織に戦闘員として関与した十八歳以上の国民について、将来的に国籍剥奪を可能にする法改正を検討すると表明。ただ、現在シリアで拘束されている独出身の戦闘員には適用されない見込みで批判が出ている。ベルギーは戦闘員の引き取りについて「欧州としての解決策」を呼びかけるが、議論は進んでいない。

 

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