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【国際】

<独立国「ワ」 ミャンマーの矛盾>(上)自治拡大求め 軍備誇示 少数民族、スー・チー氏と溝

4月17日、ミャンマー東部パンサンで、軍事パレードに参加した若い兵士ら

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 ミャンマー東部シャン州の「ワ自治管区」。少数民族ワが暮らす。州の下の行政区画だが、ミャンマーの少数民族で最大の兵力を擁し、中央政府や国軍が自由に立ち入れない事実上の独立国だ。記者は今回、現地を支配する武装勢力の記念式典に合わせ、通常は外国メディアに閉ざされる自治管区に入った。ワの現状を通じ、ミャンマーの抱える矛盾を伝える。 (シャン州で、北川成史、写真も)

 四月十七日、ワ自治管区の中心都市パンサンの競技場は、軍服と鮮やかな民族衣装の人々であふれ返った。政府との和平三十周年を祝う武装勢力「ワ州連合軍」(UWSA)の式典だ。

 七千人以上の兵士らが機関銃やロケットランチャーを携え行進。対空、対戦車兵器や無人小型飛行機も列を連ね、軍備を誇示した。

 「『ワ州』の発展と強さを顧みて祝う」。式典の演説でUWSAトップのパオ・ユーチャン氏は何度も「ワ州」と繰り返した。ミャンマーには主な少数民族が住む地域として七つの州がある。ワも同様に一つの州であるべきだとの主張だ。

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 「政府が自治州の地位を与えるまで、命をかけて戦う」とパオ氏は強調したが、州への格上げは改憲が必要で実現性は低く、民族意識高揚の狙いが透ける。

 UWSAは一九八九年、政府と長く内戦を続けたビルマ共産党が民族別に分裂したのに伴い結成された。当時の軍政はUWSAとすぐに個別の和平を結び、自治権を認めた。

 前年の八八年、大規模な民主化運動が発生。国軍は運動を弾圧し、政権を掌握したが、民主化勢力と少数民族の団結を恐れていた。

 ミャンマーを植民地にした英国さながら、民族によって扱いに差をつける「分割統治」は、矛盾の種となった。ワは中国と関係を深め、ミャンマーと隔絶した立法、行政、司法を構築する。中国語が公用語で、通貨は人民元。町にはワ警察のパトカーが走る。

 UWSAによると、自治管区の人口は六十万人、面積は一万平方キロ超で岐阜県ほどの大きさ。推定兵力は三万人で予備役が一万人いる。兵力数百人の武装勢力もある中で、飛び抜けた「軍事国家」だ。中国の技術者の指導で兵器を生産し、他の武装勢力にも売却しているといわれる。

 冒頭の式典ではアウン・サン・スー・チー国家顧問のメッセージも代読された。祝意を示しつつ「緊張を和らげ、安定を保つには全土停戦協定への署名が不可欠だ」と求めた。

 独立から七十年続く少数民族との内戦終結と和平を最重要課題に掲げるスー・チー氏は、各武装勢力と政治対話を前提に共通の停戦協定を結び、全国的な武装解除を目指すが、主要な約二十の勢力のうちUWSAを含むおよそ半数が未署名。少数民族側の不信感は根強い。UWSA幹部は四月十八日の記者会見で「防衛のために軍を維持する」と協定に消極姿勢を表した。

 政府にとってUWSAの存在は和平への障害だが、全面対立はできない。背後にいる中国との関係は、イスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害で欧米の批判に対抗する上でも重要だ。

 ワの存在感は特異な位置付けのまま膨らんでいる。

<ワ> 中国南部雲南省から麻薬密造地帯「ゴールデン・トライアングル」に属するミャンマー東部シャン州の山岳地帯を中心に暮らす少数民族。モン・クメール語派に含まれる独自のワ語を持つが、中国語の併用が進む。古くは首狩りの風習があった。

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