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【国際】

<ロシアの素顔>汚染深刻 ごみ分別挑む 広大な大地、埋め立て頼み

健康被害の恐れがあり、周辺住民から閉鎖要求が出ているモスクワ州クリンの埋め立て地=ロシア通信提供

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 広大な国土を持つロシアで、九割以上を埋め立てに頼ってきたごみ処理が社会問題化している。モスクワ郊外の処分場では、悪臭や健康被害で周辺住民からの抗議も起きている。遅ればせながら、プーチン大統領の号令の下、分別、リサイクルへの取り組みも始まっているが、長年の意識を変えるのは難題だ。 (モスクワ・栗田晃)

 モスクワ中心部から百八十キロ離れたモスクワ州ロシャリ。人口二万人ののどかな村の風景の中に、真新しい工場が現れた。昨年末から稼働するロシアでは珍しいごみの分別処理施設だ。

 コンピューター制御された中心部の機器から管が枝分かれし、ごみが紙やプラスチック、アルミニウムなどの材質別に分類されていく。総量の四割を占める生ごみは堆肥として再利用。工場は二十四時間稼働し、五十万人分の一日の排出量に当たる最大五百トン分の処理が可能だという。工場がある工業団地のセルゲイ・デュジン所長(34)は「計画に一年半かけた。部分的に欧州の施設を参考にはしたが、全体は独自のものだ」と胸を張った。

モスクワ州ロシャリの工場で材質別にまとめられたごみ。こうした分別処理はロシアでは珍しい=5月27日、栗田晃撮影

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 こうした分別施設はロシアではまだ非常にまれだ。そもそも分別の習慣がなく、生ごみや紙、瓶もペットボトルも、ダストシュートに一緒くたに捨てるのが一般的だ。それを可能にしてきたのは広大な国土に散らばる合法、違法合わせて約五万ともいわれる埋め立て地やごみ捨て場だった。

 しかし、二〇〇〇年代の高度経済成長による消費社会の到来で、ごみの量が激増。ロシア国家統計局によると、家庭ごみの量は一九九九年の七百五十五万立方メートルから、二〇一七年には二千七百万立方メートルまで、約三・六倍に増え、ひずみが生じてきた。

 特に人口千二百万人超の巨大都市モスクワのごみを引き取る周辺地域は近年、問題が深刻化。モスクワ州ボロコラムスクでは昨年三月、ごみ埋め立て地から拡散した硫化水素による中毒症状で、周辺の学校の生徒五十人が病院で手当てを受ける事態も起きた。

 モスクワから千二百キロ離れた北部アルハンゲリスク州でも、首都から運ばれるごみを埋め立てる計画に地元住民が反発し、現在も抗議行動が続いている。地元活動家のドミトリー・セクシンさん(45)は「州内にはすでに三百以上の違法な処分場があり、行政は二十年間、何もしてこなかった。汚染された水が住民の飲料水になり、川や海に流れる。環境的な悲劇だ」と憤る。

 抗議の高まりを受け、政権もようやく動いた。プーチン氏は昨年の大統領再選後に発表した政策方針の中で、二四年までの環境に関する国家計画を打ち出した。リサイクル、分別するゴミの割合を、一九年のそれぞれ7%、12%から、二四年には36%、60%まで引き上げるとの目標を掲げた。

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 プーチン氏は今年二月の年次教書演説でもごみ問題に触れ、「二年以内に、都市部にある三十の大規模な埋め立て地を閉鎖して、土地を修復する」と明言し、住民の懸念に対応する姿勢をアピールした。

 日本の先進技術への期待もある。二四年までに最新型の焼却工場を二百カ所に建設する計画に触れながら、プーチン氏は「日本は都会の中心地に工場があるが、住民の反対もなく、うまくいっている。その道を歩むべきだ」と発言。安倍政権が提唱した日ロ経済協力プランの中でも、極東ウラジオストクなどで日本の協力の下、廃棄物処理のモデル事業が進められる。

 しかし、国の方針が市民に浸透するまでの道のりは遠い。ロシアメディアによると、現在、分別回収の動きがあるのは、八十五の自治体などのうち十七にとどまる。全土的な分別の習慣づけは難しい状況だ。

 モスクワの街頭で聞いても、ごみ問題のとらえ方は人それぞれだ。主婦のナジェジュダ・ドロホワさん(40)は「欧州のように分別は必要。子どもたちのためにどんな国を残すのか考えるべきだ」と積極的だ。コンピューター技師のセルゲイ・フマロフさん(30)も「自分のマンションは民間業者と契約し、すでに分別回収している。まとめて捨てていたときより、臭いも汚れも減って快適だ」と話す。一方、大学生女性(23)は「ごみの行方には関心がないし、政府が考えるべき問題。分別は時間もかかるし、やりたくない」と冷ややかだ。

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◆まず排出量削減優先を

 グリーンピース・ロシア ツィプリョンコフ代表

 ロシアのごみ問題の現状と今後について、大統領直属の市民社会発展・人権問題評議会メンバーを務める国際非政府組織(NGO)「グリーンピース・ロシア」のセルゲイ・ツィプリョンコフ代表(55)に聞いた。

「グリーンピース・ロシア」のセルゲイ・ツィプリョンコフ代表=同団体提供

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 −ロシアのごみ問題で、最優先にすべきことは。

 「多くの国と同じく、排出量削減だ。特に使い捨て製品をやめること。毎年、家庭ごみの量は5〜7%増え、十〜十五年後に二倍になる。そうなれば、どこにも行き場はない」

 「二〇一四年にロシアの各地方は排出量削減に取り組むと宣言しながら、ほとんどの地方で増加した。決めたら守るべきだ。次は分別。生ごみと危険物を除き、ごみの六割は分別できる。すべて正しく行われれば、埋め立ては全体の一割程度で済み、現在のような有毒なガスも発生しない」

 −国民の意識を変化させるにはどうすべきか。

 「国民は、ごみ処理にはお金がかかると認識すべきだ。路上に何でも捨てていい時代ではない。十年前、ロシアの交通マナーはひどかったが、現在は横断歩道の前で、ほとんどの車が停車するようになった。そのような変化は可能だ」

 「分別する方が好都合であれば、多くの人はそうする。分別する人にはリサイクル負担金を少なく、分別が嫌な人には多く払ってもらえばいい。ごみ減少社会は数十年もかからず、数年で実現できる」

 −現在の国の政策に対する不満はないか。

 「排出量削減とリサイクルではなく、焼却施設建設を先に進めるのは順序が違う。排出量が減らないと、いくら燃やしても追いつかない。決めたことを守れば、ごみは減る。埋め立て地に反対する抗議行動の参加者を追い出すための警備員にではなく、分別をするための作業員に給料を払う方が効率的だ」

 

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