東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 国際 > 紙面から > 7月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【国際】

<さまよえるウイグル ウルムチ騒乱から10年> (上)日本在住者

新疆ウイグル自治区の企業で、ウイグル族従業員に行われた政治学習の様子。ウイグル族自身がSNSに投稿したという

写真

 中国国旗と共産党旗が置かれたテーブルをはさんで、数人が話し合う様子の画像。「不忘初心跟党走(初心を忘れず党とともに歩む)」という文字も見える。

 埼玉県内で会った二十代のウイグル族男性、ヌルさん=仮名、以下同=が見せてくれたスマートフォンの画面だ。新疆ウイグル自治区に住む知人が、職場での政治学習の様子を会員制交流サイト(SNS)に投稿したものだという。

 「党への忠誠を外に向かって示すことは、自分の安全を確保するための手段」という言葉が、自治区に住むウイグル族の現状を物語る。と同時に、当たり障りのない投稿は自分が無事だと海外の親族や友人に知らせるすべでもある。

 しかし、日本にいるウイグル族が得られる情報はせいぜいここまで。故郷で何が起こっているかを把握するのは極めて困難だ。

 大学院に通う三十代のユースフさんの母親は昨年三月、再教育施設に収容された。その前日、母は「自分のことだけを考えなさい。研究に集中して」と電話口で泣き崩れていた。

 「危険なので二度と連絡してこないで」。後日、電話で話した父は、もうひとつの連絡手段だった中国版LINE「微信(ウィーチャット)」の削除も求めた。電話も微信も中国当局の監視を受ける恐れがあるのだろう。ユースフさんは「父や弟とは連絡ができず、母の安否も全く分からない」と孤立感を深める。

 ウイグル族に対する締め付けは、チベット自治区で管理政策を進めた陳全国(ちんぜんこく)氏が、二〇一六年に新疆ウイグル自治区トップに就任以降、さらに顕著になった。

 一六〜一七年は比較的容易にパスポートが取得できたといい、多くのウイグル族が海外に出て行った。一六年に来日した三十代のカヒリさんもその一人だ。

 一見、締め付けが緩んだように見えたが、その直後に暗転する。カヒリさんの兄二人は一七年に相次いで再教育施設に送られた。「今思えば誰が外国とつながっているかをあぶり出す作戦だった」。一六年春ごろから、中国国内から海外のウイグル族に送金ができなくなり、在日ウイグル族は金銭面でも苦境に陥った。

 日本ウイグル協会(東京)によると、日本にいるウイグル族は約三千人。若い留学生が多いが、現在は新規の留学生は激減した。カヒリさんによると、ウイグル族のパスポートは更新されていないといい、期限切れの後に発給されるのは一回有効の「中国行き旅行証」のみ。日本に戻って来られる保証もない。

 「二人の兄がどうしているのか調べられるなら現地に行きたいが、そんなチャンスはない」と話すカヒリさんは、出口の見えない現状をこう訴えた。「国際社会が助けてくれなければ、ウイグルの土地は五〜十年後には世界地図から消滅してしまうかもしれない」

 ◇   ◇ 

 二〇〇九年、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で起きた騒乱から五日で十年となる。中国政府は「テロとの戦い」を名目に民族管理を強める。「世界で最も成功した民族政策」と胸を張る中国政府。節目を前に、国際社会からも疑念の目を向けられる中国のウイグル政策を問う。

◆騒乱死者197人 1000人以上の説も

 ウルムチ騒乱と再教育施設 2009年7月5日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市で、大規模な騒乱が発生し、当局発表で197人が死亡、1700人以上が負傷した。

 広東省の玩具工場で前月、ウイグル族従業員が殺害された事件がきっかけで、ウイグル族の学生らが大規模デモを決行、警官隊と衝突した。1949年の共産党政権発足後、当局が発生を認めた少数民族の騒乱としては最大規模で、死者1000人以上という説もある。

 民族対立が深まる中、中国当局は自治区内にウイグル族などイスラム教少数民族の再教育施設を設置し、統制を強化。国際人権団体の調べでは、施設は17年初めに建設が始まり、110万人が収容され、220万人が自宅から通いで再教育を受けているとされ、海外から批判を受けている。

 中国政府は当初、施設の存在を「完全な虚偽」と否定。18年10月になって「テロと戦い、過激主義を防ぐ措置を取ることは新疆の安定に役立つ」(外務省)と一転して認めた。

 施設は「職業技能教育訓練センター」という名称で、当局は「中国語や法律、職業教育、思想教育を通じ、心理と行動を矯正し社会や家庭への復帰を促す」ことが目的と説明している。

2009年7月7日、ウルムチ市で、武装警察隊員(左)と激しく対立するウイグル族の住民ら=共同

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報