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【国際】

<さまよえるウイグル ウルムチ騒乱から10年> (下)自治区の漢族

4日、中国新疆ウイグル自治区で、ウルムチ市中心部の大バザール前に設置された監視カメラ=共同

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 「二〇〇九年七月五日まではウルムチは平穏だった。でも、あの数日で何もかもが変わってしまった」

 中国新疆ウイグル自治区の区都、ウルムチ市で起きた騒乱はウイグル族だけでなく漢族にも深い傷を残した。

 神奈川県内で大学院進学を目指す漢族の男子学生劉興偉さん=仮名=が、高校一年だったあの日。ウイグル族が多く住むウルムチ市南部の学校でバドミントンの試合中、突然サイレンが鳴り響いた。

 「急いで帰れ」。先生の言葉に促され自宅に戻って以来、一年近く高校は休校になった。

 「先生や友達だけで三十人ぐらい殺された」。ウイグル族だけでなく、漢族もほかの少数民族も死んだ。「発表されたのは百九十七人だが、少なくとも数千人は死んでいると思う」

◆厳しい監視社会に嫌気

 騒乱後の生活は激変した。携帯電話は通話はできるが、ショートメッセージだと百文字ぐらいしか送れない時も。インターネットのスピードは極端に遅くなり、メールもグループに送ることができなくなったという。

 通っていた高校は、漢族と少数民族が一緒に勉強していたのに、再開後は別のクラスに分けられた。親にも先生にも「ウイグル族と付き合うな」と言われ、従った。仲のいいウイグル族の友達は多かったが、顔を合わせてもぎこちなく、次第に会話はなくなった。

 事件から十年、自治区は漢族化が進む。劉さんの祖父は中国南部の生まれで、国民党と共産党による国共内戦を国民党員として戦い、終戦後に捕虜になって自治区に送られた。父母も自治区生まれで、劉さんにとってウルムチは生まれ故郷だ。

 だが、自治区に生まれ育った漢族にも、厳しい監視の目が注がれる。ウルムチ騒乱以降、テロが横行した時期に比べると治安は確かに改善したが、人の集まる商業施設では民族に関係なく所持品検査され、警備員に携帯をチェックされる。外で拝む格好をしただけで、街頭の監視カメラで見つかり職務質問されるという。

 ウルムチ市の人口は公式発表でも一五年以降、減少している。劉さんは「実感では相当減っているのでは」と推測する。

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 昨年の春節(旧正月)でウルムチに一時帰郷したが、友人は何を話すのにも慎重でピリピリした様子。両親は劉さんが日本在住という理由でパスポートを没収された。管理社会に嫌気がさし、遠い親戚も海外への移民を決めた。「新疆人」としては、豊富な資源や利益を中央に持って行かれる不満もある。「故郷をよくしたいが、今の新疆には戻りたくない」

  (この連載は、浅井正智、安藤淳、栗田晃が担当しました)

<新疆ウイグル自治区の経済> 天然ガス、石油、石炭の埋蔵量が中国全体の30%強を占めるなど資源が豊富。騒乱のあった2009年の域内総生産(GRP)伸び率は全国平均を下回ったが、自治区南部の貧困地域を中心に高速鉄道や道路などのインフラ開発を進め、17年までは全国平均を上回った。生活が豊かになることで不満を抑え込んでいるとも指摘されるが、18年はインフラ投資が前年比25%も落ち込んだため、伸び率は6.1%と全国平均を下回った。このほかシルクロード経済圏構想「一帯一路」の中継点として貿易額や観光収入の増加も目指す。

 

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