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【国際】

貴州省 産業基地化で急成長 ビツグデータ、両輪の未来図

貴陽で5月下旬に開かれたビッグデータ産業博覧会でファーウェイのブースに展示された顔認証システム

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 中国で最貧地域の一つと言われてきた貴州(きしゅう)省が、膨大な情報を活用するビッグデータ産業の育成を猛烈な勢いで進め、省都の貴陽市は広東省深セン(しんせん)と並ぶ先端技術の街に変貌しつつある。14億人が生み出す圧倒的な量の情報の活用は、利便性をもたらす一方、究極の監視社会が到来しかねない危うさをはらんでいる。 (貴州省貴陽市で、浅井正智、写真も)

 「わが社は貴州省と貴陽市の全面的な支持を受け、ビッグデータ戦略の受益者だ。昨年は十九億ドル(約二千億円)の資金を調達し、業界で中国最大いや世界最大の企業になった」

 トラック配車アプリ大手「満幇(まんほう)集団」の徐強(じょきょう)副総裁は自信満々にこう話した。

 配送を希望する荷主が、荷物量や行き先をアプリを通し、登録してある運転手とのマッチングを依頼する。会員は中国全土にいる六百五十万人の運転手と百六十万人の荷主。効率的なマッチングの結果、運転手の平均走行距離はサービス開始以前の月九千キロから一万三千キロに増えたという。

貴州小愛機器人が開発したバーチャルロボット。「貴陽のおいしいレストランは?」と話し掛けると音声と画像で紹介してくれた

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 知能ロボットの開発に取り組む「貴州小愛機器人科技」は、もともと上海に本社を置いていたが、二〇一六年に貴陽にも拠点を構えた。盧小玲(ろしょうれい)社長はその理由を「ハイテク企業には補助金や税制面の優遇政策がある」と話す。具体的な金額は「明かせない」と言葉を濁すが、急発展の背景には政府からの巨額かつ不透明な資金援助があるのは確実とみられる。

 内陸部で発展から取り残されてきた貴州省は、共産党政権にとって貧困脱却戦略の主戦場であり続けてきた。名物や観光資源といえば「茅台(マオタイ)酒」と少数民族の居住地域くらいしかない。

 転機となったのは一六年、省がビッグデータ試験区に指定されたこと。誘致したのは習近平(しゅうきんぺい)国家主席の側近、陳敏爾(ちんびんじ)省党委書記(現重慶市党委書記)だ。

 省内のビッグデータ関連企業は九千五百社余りに上り、昨年の域内総生産(GDP)の成長率はチベット自治区と並び全国トップの9・1%。昨年一年間で貧困人口を百四十八万人減らすことに成功した。省内の貧困地区から五年ほど前に貴陽に出てきて、レストランで働く二十代の女性は「この数年、豊かになったと実感する。ビッグデータ産業のおかげ」と感謝してみせた。大成功を収めた陳氏は、「ポスト習」をうかがう一人にのし上がった。

 五月下旬に貴陽で開かれたビッグデータ産業博覧会には、米国との貿易摩擦の渦中にある通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)も出展していた。顔認証でスマートフォンのロックを解除する技術は、当然監視カメラにも使うことができる。展示されていたスクリーンは百人以上の顔を一度に識別する様子を映し出していた。

貴陽市内にある実態不明の研究施設「国家工程実験室」

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 一方、貴陽市内のビル内にある政府系の研究施設「国家工程実験室」の活動は謎だらけだった。軍関連企業と地元政府が一六年に共同で設立したこと以外は不明。職員の劉耕(りゅうこう)さんは「行政データの収集と共有を通じ、五〜十年かけて政府の統治能力を高めていく」と話すばかり。具体的な情報は一切明かさなかった。

 それでも軍事技術を応用して五〜十年かけて研究を進めれば、ほぼ完璧な監視システムが完成する可能性があることは容易にイメージできる。その先に待ち受けているのはプライバシーもない「逆ユートピア」ではないかということだ。

 貴陽にある「雲上貴州ビッグデータ産業発展有限公司」は昨年二月、米アップルからデータ保存サービス「iCloud(アイクラウド)」の中国での運用を移管された。サーバーが米国から中国国内に移ったことで、「情報漏れが心配だからアイクラウドはもう使っていない」(四十代女性)という話も聞かれた。

 しかし、こうした懸念の声は少数派だ。プライバシー意識がそもそも薄い中国では、先端技術は少数民族や民主活動家の監視だけでなく、交通違反の取り締まりなど、すでに日常生活に深く入り込んでいる。利便性が追求される中、監視社会化への歯止めはもはやかからなくなっている。

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