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【国際】

次世代ハイテク 野望広がる中国・深セン

BYD本社に展示された主力の多目的電気自動車(EV)

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 ハイテク企業が集積し、「アジアのシリコンバレー」と呼ばれる中国・広東省深セン(しんせん)市。米中貿易摩擦でトランプ米政権の標的となった中国通信大手「華為技術(ファーウェイ)」を筆頭にこれまで、電機やIT、通信分野の産業が中核を占めてきたが、さらに、期待される次世代産業が育っている。新交通システムやゲノム(全遺伝情報)解析などの先端技術を扱う中国企業の最前線を訪れた。 (深センで、相坂穣、写真も)

◆「新交通」BYD社が顔認証やビッグデータ

■電池から事業拡大

 全自動運転のモノレールが高架軌道を走り、地上を行き交うバスやタクシーは大部分が電気自動車(EV)。「比亜迪(BYD)」の本社内には、近未来都市のような光景が広がる。

 同社は、農業地帯の安徽(あんき)省出身の王伝福(おうでんふく)会長が一九九五年に創業した従業員二十人の小さな電池メーカーだった。二〇〇三年から自動車製造へ参入。その後、生産を大幅に伸ばし、一八年にはEVなど新エネルギー車を世界最多の約二十五万台製造。電池技術を生かした電気バスは、日本を含む五十超の国・地域で導入されている。

BYD本社に設置された無人運転式の新交通システムの実験線

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 一一年からは新交通の研究に着手した。五年で五百億元(約八千億円)を投資し、千人規模のチームで交通システムを開発。一七年、中国北西部の寧夏(ねいか)回族自治区銀川(ぎんせん)市で、新型モノレールの営業運転を始めた。切符やICカードがなくても乗客が改札を通過できる自動顔認証システムやビッグデータを活用した運行管理などを進めている。

 ファーウェイとも戦略提携し、次世代通信「5G」の関連技術を自動車開発などにも活用する。

 中国企業に詳しい近畿大の徐方啓(じょほうけい)教授は「BYDは競争相手が二百人でやる仕事を十倍の二千人でやる会社。中国流の人海戦術を、ライン作業などローテクからハイテク分野に広げて成長スピードを上げた」とみる。初期のBYD車は「トヨタカローラのコピー」と揶揄(やゆ)されたが、「ベンツやアウディなど欧州車の技術者を好待遇でスカウトし、外観や走行性能も高めた」と話す。

◆「バイオ」遺伝子データ量、日米欧抜く勢い

■国家遺伝子バンク

中国国家遺伝子バンクの玄関ロビーに置かれたマンモスの像

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 米中の覇権争いは、医療、バイオ分野にも及ぶ。米国、欧州、日本に次ぐ世界第四の遺伝子データバンクとして、一六年に深セン市郊外の丘陵地に建設されたバイオ企業BGIグループの「中国国家遺伝子バンク(CNGB)」を訪れた。

 玄関を入るとロビーに巨大なマンモスのモニュメントが現れ、圧倒された。広報担当者は真剣な表情で「遺伝子研究で絶滅種を再生できる時代が来る」と語る。

 毎年、十万人のヒトゲノムに相当するデータを処理するとされる施設の心臓部へ入った。撮影禁止エリアには、一台数億円とされる次世代シーケンサー(解析装置)が約百台、整然と並んでいた。

 数年以内に、データの蓄積量で、日米欧の三施設の合計を追い抜くとされる。だが、研究を統括する主任は「われわれは米国に学んできた立場。データ量で上回っても、技術面では今後も協力しないといけない」と謙虚に語った。

 中国では昨年、深センの大学の研究者がゲノム編集による遺伝子改変で人間の子どもを誕生させ、世界的議論を呼んだ。各国の科学政策に詳しい自然科学研究機構の小泉周(あまね)特任教授は「中国に倫理的課題はある。ただ、圧倒的なデータ量で、創薬、予防医療の開発で優位に立つのは確実だ。日米などは覇権争いではなく、中国を含めたデータ共有に向け、個人情報保護など国際ルールの整備を急ぐべきだ」と指摘している。

◆「野心と創造力」人材集まる 東大社会科学研究所・伊藤亜聖 准教授

改革開放40周年記念で、深セン中心部の超高層ビル街で週末に行われるライトアップ

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 人口数万人の漁村から四十年で千二百万人の巨大都市へ変貌を遂げ、中国の改革開放政策の象徴となった深セン。今後も中国経済をけん引するハイテク都市であり続けるのか。二〇一七〜一八年に現地に滞在し、研究した東京大社会科学研究所の伊藤亜聖(あせい)准教授(中国経済)に聞いた。

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 −どんな都市か。

 一九七八年に導入を決めた改革開放で経済特区となり、日本の電機メーカーなど外資の工場が進出した。九○年代まで下請け工場の地だった。二〇〇〇年代以降、地元のたたき上げの創業者が台頭。世界屈指の通信メーカーとなったファーウェイ、SNSの「WeChat」で知られる「テンセント」、ドローン(小型無人機)メーカー「DJI」などが生まれた。深センのハイテク産業の今の本丸は、エレクトロニクスとITだ。さらにその先に電気自動車やゲノム分野が出てくる。ファーウェイとBYDの提携は、現在の中核と次世代産業が、5Gというインフラで完全につながる可能性を示唆する。

 −成長に死角はないか。

 中国も今後、日本以上の少子高齢化で社会保障費の問題が出てくる。国全体では相当な負担となる。ただ都市としての深センは別だ。中国屈指の大学を出た理系の若者が移り住み、昼夜を徹して働く。野心と創造力に満ちた人材の循環ルートは確立しており、イノベーション都市の地位を築いた。

 −米中貿易戦争の影響は。

 ファーウェイも米中摩擦で、売り上げは予測より落ちたとはいえ、まだ伸びている。中国国内に巨大な市場があり、国外の途上国の市場も大きい。倒産するとは考えにくい。中国のマクロ経済への影響の程度はまだ不透明だが、政策を総動員した対応になりつつある。

 ワシントンは米中の技術覇権争いを重視する。だが、共同研究、共著論文が最も多いのは米中の研究者であることも事実だ。BYDのEVバスも、サンフランシスコやスタンフォード大の校内を走っていた。米国もワシントン、ウォールストリート、シリコンバレーで考え方が違うのではないか。

 とはいえ、深センの企業にとっては、完全に逆風の中で、何をしようとしているかを見ることには意味がある。 (聞き手・相坂穣)

 

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