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【国際】

<奪われる海岸 カンボジアの中国化>(上)コストを優先 崩落 一帯一路要衝 無許可でビル建設

6月下旬、カンボジア南部シアヌークビルで、建設中のビルが崩壊し、28人が犠牲になった現場=NGO「CENTRAL」提供

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 カンボジア沿岸部への中国の進出が強まっている。海岸線の二割を占める地域でリゾート開発を進め、南部の港湾都市シアヌークビルの経済は中国人が掌握する。旧最大野党を解党させ、フン・セン首相率いるカンボジア人民党が全議席を独占した総選挙から、二十九日で一年。事実上の一党独裁で中国への傾斜を強める中、経済や軍事面で影響力を増す中国への過度の依存は軋轢(あつれき)を生み、市民を翻弄(ほんろう)している。

 ドドドドドッ。六月二十二日の午前五時前、シアヌークビルの中心部に轟音(ごうおん)が響いた。

 中国企業が当局に無許可で建設中だった七階建てビルが崩落。ビル内で寝ていた五十人以上のカンボジア人作業員が巻き込まれた。

カンボジア南部カンポート州で9日、手の傷痕を見せるオク・サワットさん=北川成史撮影

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 二階にいたオク・サワットさん(31)は、壁の破片が体を直撃して跳び起きた。「暗闇の中、死を覚悟した」と振り返る。十分ほどたって目が慣れた後、傾いた天井と柱の間に隙間を見つけ、外に逃れた。手と足の軽傷で済んだが、ビルはがれきの山と化し、仕事仲間二十八人が命を失った。

 サワットさんは約百キロ離れたカンポート州にある村のコメ農家出身。知り合いに誘われ、妻(29)と長男(5つ)を村に残し、六月十二日にビル建設に加わった。

 一日九時間働き、日給は十五ドル(約千六百円)の約束。宿舎はあてがわれず、ビル内で寝起きし、自炊した。「村は農閑期に仕事がない。家族のため、休日も取らず働いたが、事故で給料はまったく支払われていない」と憤る。

 他の作業員らも貧しい地方出身の農民。中国マネーで建設ラッシュが進むシアヌークビルに出稼ぎに来て、被害に遭った。

 シアヌークビルはタイ湾に面し、カンボジアで唯一、大型船が入港できる深水港を持つ。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」においての要衝に当たる。

 二〇〇八年に中国が経済特区の開発を始めると、人とカネが急速に流入した。

 ネットメディア「アジア・ニュース」によると、現在、町のホテル百五十六軒のうち百五十軒、カジノ六十二軒のうち四十八軒を中国人が経営。町の経済の九割を中国人が握る。

 事故に対し、カンボジア政府は敏感に反応した。翌日、フン・セン氏はタイで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議から帰国してすぐに現場を視察。司法当局は事故の三日後、ビルオーナーや建設業者の中国人五人を含む計七人を過失致死罪などで訴追した。

 中国の投資に頼るフン・セン政権が、市民の不安を抑えようとする姿勢がにじむが、問題は根深い。

 地元人権NGO「アドホック」のチープ・ソティアリー氏によると、シアヌークビル州では中国企業の建設事業が百十件進行中で、事故後、新たに五件の無許可建設が判明した。崩落したビルも含め中国企業の物件の大半は、完成までの時間とコストを優先し、強度のあるコンクリート柱を使っていない構造だという。

 「行政の監視が甘く、無許可建設が横行する状況は、贈収賄など汚職のまん延を示す」と指摘。「建設済みの脆弱(ぜいじゃく)なビルが十年後どうなるか」と懸念する。

 「ショックが残っている。しばらくは農業をする」。地元に戻ったサワットさんはつぶやいた。「自分は中卒で専門知識もない。お金を稼ぐには建設作業員しか思い浮かばない」

 事故は中国の投資で拡大したカンボジア国内の地域間や貧富の格差、教育環境の問題も映し出している。(シアヌークビルで、北川成史)

<一帯一路> アジア、欧州、アフリカを結ぶ地域でインフラを整備し、投資や貿易を活発化させて巨大経済圏をつくろうという中国の構想。2013年に習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が提唱した。「一帯」は中国西部から中央アジア、欧州とつながる「シルクロード経済帯」、「一路」は中国沿岸部から東南アジア、インド、アフリカ、中東、欧州などと連なる「海上シルクロード」を指す。米国や日本はインド洋と太平洋を結んだ地域の経済成長を目指す「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出し、一帯一路をけん制している。

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